2019年11月18日

「在職老齢年金」を廃止できないのだから、「在職定時改定」は夢物語

令和元年(2019年)11月13日のNHK NEWS WEBを読んでいたら、在職老齢年金の減額基準 収入51万円へ引き上げ案 おおむね了承と題した記事が掲載されておりましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度について、厚生労働省は年金が減らされる収入の基準額を現在の47万円から51万円に引き上げる案を社会保障審議会に示し、おおむね了承されました。

「在職老齢年金」制度は働いている高齢者の年金を減らす仕組みで、65歳以上の人では給与と年金合わせて月額47万円を上回る場合は減らされます。

しかし高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘も出ていることから、厚生労働省は見直しを検討していて、13日の社会保障審議会の部会に年金が減らされる基準額を51万円に引き上げる案を示しました。

先月の部会で厚生労働省は基準額を62万円に引き上げる案と制度そのものを廃止する案の2つを示していましたが、与党内から「所得の高い人にさらに年金が支給されることになる一方、将来世代の支給水準が下がる」などの指摘が出されたため、引き上げ幅を縮小しました。

51万円にした場合、年金が減らされる人は、今よりもおよそ9万人少なくなり、年金の支給総額は年間およそ700億円増えるものの、将来の公的年金の給付水準を示す「所得代替率」は0.1ポイント未満の低下にとどまり、将来世代への影響は限定的だとしています。

この案に対し、委員からは「高齢者の就労を促すものだ」などの賛成意見が出され、おおむね了承されました。厚生労働省は年内に具体策をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出する方針です』

以上のようになりますが、この記事を読んでいると在職老齢年金の改正に、いよいよ結論が出そうな感じがします。

また改正案が実施される時期により、影響の度合いが変わってくるので、今後はそちらに注目が集まりそうですが、個人的な感想を書いてみると次のようになります。

(1)改正案が実施される時期によっては、恩恵を受けられる方が少ない
60歳から65歳の間に、厚生年金保険に加入して働いている場合、特別支給の老齢厚生年金の月額と月給の合計額が、28万円という停止基準額を超えると、特別支給の老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。

また65歳以降も厚生年金保険に加入して働いている場合、老齢厚生年金の月額と月給の合計額が、47万円という停止基準額を超えると、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。

その理由としては働く高齢者の年金額を調整する、「在職老齢年金」という制度があるからです。

ただ高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘があるため、この在職老齢年金を見直しするための議論が行われているのですが、最初は廃止が有力案でした。

しかし議論が進むうちに、上記の28万円と47万円の両者を、62万円まで引き上げする案が有力になり、最終的には51万円で落ち着きそうです。

このように47万円を51万円に引き上げするのは、ほとんど変化がない感じがしますが、28万円を51万円に引き上げするのは、すごく大きな変化だと思います。

ただ60歳から65歳までの間に支給される、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は、男性の場合は次のようなスケジュールで、段階的に引き上げされているのです。

・昭和28年4月1日以前生まれ:60歳
・昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日生まれ:61歳
・昭和30年4月2日〜昭和32年4月1日生まれ:62歳
・昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日生まれ:63歳
・昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日生まれ:64歳
・昭和36年4月2日以降生まれ:65歳

そのため改正案が実施される時期によっては、恩恵を受けられる方があまりいないという状況になりそうです。

(2)1%程度しかいない繰下げ受給の利用者を、増加させる効果はない
原則65歳となる老齢基礎年金や老齢厚生年金の支給開始を、1ヶ月繰下げる(遅くする)と、「繰下げ受給」の制度により、0.7%の割合で年金額が増えていきます。

現在の上限である70歳まで繰下げすると、最大で42%(5年×12ヶ月×0.7%)も年金額が増えるため、お得な制度だと思うのですが、厚生労働省の調査によると、平成28年(2016年)度末における利用者は1%程度でした。

それにもかかわらず厚生労働省は、繰下げできる年齢の上限を、75歳程度まで引き上げする案を出しております。

もし実現した場合には、最大で84%(10年×12ヶ月×0.7%)も年金額が増える可能性があるため、更にお得な制度になるのですが、繰下げ受給の利用者が増えるとは思えないのです。

その大きな理由として、在職老齢年金で支給停止になった年金は、繰下げしても増えないというルールのため、繰下げ受給の利用者を増やしたいのなら、在職老齢年金を廃止するのが良いのです。

しかし上記のように在職老齢年金の改正は、制度の廃止ではなく、停止基準額を少し引き上げするという、軽微な改正に止まりました。

そのため繰下げ受給の利用者は、上限が75歳程度まで引き上げされても、ほとんど増えないと思うのです。

なお60歳から65歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、繰下げしても年金額は増えないため、停止基準額が28万円から51万円に引き上げされても、繰下げ受給に対する良い影響はありません。

(3)退職しなくても年金が増える「在職定時改定」は、夢物語だと思う
65歳以降も厚生年金保険に加入する場合、老齢厚生年金は増えていきますが、年金額が改定されるのは、70歳に到達してから、または退職して1ヶ月が経過してからになります。

これだと退職しなかった場合には、5年も待つ必要があるため、前年に納付した保険料に応じて、年金額が1年ごとに改正される、「在職定時改定」の導入が検討されているのです。

ただ財源不足が理由のひとつになって、在職老齢年金を廃止できなかったのですから、この在職定時改定も財源不足により、夢物語で終わる気がします。
posted by FPきむ at 20:35 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月02日

チュートリアル徳井さんの社会保険未加入は、単純なようで謎が多い問題

令和元年(2019年)10月26日のサンスポを読んでいたら、チュート徳井、16年に銀行預金差し押さえ 社会保険にも未加入と題した、次のような記事が掲載されておりました。

『お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実(44)の個人会社が東京国税局に計約1億2000万円の申告漏れを指摘された問題で、徳井が所属する吉本興業は26日、徳井が当面の間、芸能活動を自粛すると発表した。本人が事務所に申し入れたという。

徳井は「世間の皆様に不信感を与えてしまい、誠に申し訳ございませんでした。あらためて納税に対する意識、仕事のこと、自分自身のこと、しっかりと見つめ直していきたいと思っております」とのコメントを出した。

また吉本興業は同日、申告漏れに関する追加報告を公表。個人会社は2009年に設立されたが、毎年の期限内に申告を行わず、税務署の指摘を受けて12年と15年にそれぞれ3年分をまとめて申告。

しかし申告後も未納が続き、16年には銀行預金を差し押さえられた。同社は社会保険にも加入していなかったという。

吉本興業によると、18年までの7年間で、個人会社の申告漏れ額は約1億1800万円で、他に経費として認められなかった額が約2000万円に上った。これらの分の追徴税額で約3700万円を納付したという』

以上のようになりますが、この記事はチュートリアル徳井さんに関する、所得の申告漏れ問題と、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の未加入問題について、取り扱ったものになります。

ここまで長期間に渡って、所得の申告漏れを続けたケースは、かなり珍しいと考えられるので、税金や社会保険について学びたいという方の、良い教材になると思いました。

実際のところ税金について解説したブログや、ユーチューブの動画などを見てみると、これらの問題を取り扱っている方は多いようです。

徳井さんにとっては不名誉な事だと思いますが、芸人さんですから「いじられておいしい」とプラスに捉え、この難局を乗り切って欲しいと思います。

ところで所得の申告漏れ問題の話を聞いて、最初に疑問を感じたのは、徳井さんの年収です。

3年間で約1億2,000万円の申告漏れがあったのだから、徳井さんの年収は「約1億2,000万円÷3」により、約4,000万円だと推測している方がおりました。

ただ冒頭の記事を読んでみると、この約1億2,000万円というのは、「年収−経費」で算出される所得と考えられます。

ですから年収は約4,000万円より、経費の分だけ多くなり、ある税理士さんのブログの記事を見ていたら、約6,000万円〜約7,000万円ではないかと推測しておりました。

もっともこの約1億2,000万円は、徳井さんの所得ではなく、この方が設立した個人会社(チューリップ)の所得です。

吉本興業などからのギャラは個人会社が受け取り、徳井さんはこの個人会社から、役員報酬を受け取っていたと思いますが、原則として役員報酬の金額は自由に設定できます。

しかも個人会社の役員は、徳井さんだけだったようなので、高額の役員報酬を設定できるのです。

ただ法人登記簿を調べてみたら、個人会社の事業内容の欄には、「飲食店の経営及びコンサルタント業」などと記載されていたそうなので、飲食店の開業資金を蓄えるために、役員報酬を低く抑えていた可能性もあるのです。

いずれにしろ正確な年収を外部の人間が推測するのは、不可能と考えた方が良さそうです。

もうひとつの社会保険の未加入問題でも、疑問を感じた事があり、それを列挙すると次のようになります。

・国税局は銀行預金を差し押さえて、滞納していた税金を強制徴収したのに、なぜ日本年金機構は社会保険料を強制徴収しなかったのか?

・徳井さんだけでなく、約9年間にも渡って未加入を放置してきた日本年金機構にも、問題があるのではないか?

・税金と保険料を一括して徴収する「歳入庁」が創設されていれば、社会保険料も一緒に徴収できたと思うのだが、この案はどうなったのか?

・正当な理由がないのに、社会保険に加入しないでいると、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる場合があるが、今回はどうなったのか?

・社会保険に加入しない場合、国民健康保険と国民年金に加入するが、これらの保険料は、きちんと納付していたのか?(電気代やガス代の支払いを忘れ、何度も止められていたという情報があるので、これらの保険料も滞納していた可能性がある)

・国民健康保険の保険料の滞納が続くと、保険証の代わりに、「短期被保険者証(有効期限が短い保険証)」や、「被保険者資格証明書(診療費の全額を支払い、後で7〜8割の還付を受ける)」が、交付される場合があるが、徳井さんは保険証を持っていたのか?

以上のようになりますが、このように社会保険の未加入問題に関して、疑問に感じる事は非常に多いのです。

しかし吉本興業が作成した報告書を読んでみると、「チューリップ社及び徳井個人の社会保険料の納付状況ですが、2009年の法人設立時に社会保険の加入手続きをしていない状況が続いておりました。速やかに加入手続きをいたします」と、とても簡単に済ませております。

もしこれで終わりだとしたら、闇営業の問題と同じように、すっきりしない幕引きになりそうです。
posted by FPきむ at 20:47 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする