2025年11月10日

立憲民主は年金積立金の資産配分を、政権批判のネタにできなくなった理由

令和7年(2025年)11月7日の47ニュースを読んでいたら、年金運用14.4兆円黒字 7〜9月期と題した、次のような記事が掲載されていました。

『公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は7日、7〜9月期の運用実績が14兆4477億円の黒字だったと発表した。

運用資産別では、国内株式が7兆484億円、外国株式が6兆3663億円、外国債券は1兆9389億円の黒字をそれぞれ確保した。国内債券は9059億円の赤字だった。

9月末時点の運用資産額は277兆6147億円。市場運用を始めた2001年度からの累積収益額は180兆1843億円となった』

以上のようになりますが、年金の財源の一部として活用される年金積立金は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という組織によって運用されています。

このGPIFが平成13年(2001年)度に、年金積立金の運用を開始した時の資産配分は、だいたい次のような割合になっていました。

・国内債券:約67%
・国内株式:約11%
・外国債券:約8%
・外国株式:約9%
・短期資産:約5%

国債などの国内債券に約67%も配分されているため、安全運用になっていましたが、平成26年(2014年)からは次のように、国内債券の割合が大幅に引き下げられ、株式の割合が引き上げされたのです。

・国内債券:約25%
・国内株式:約25%
・外国債券:約25%
・外国株式:約25%

このように資産配分が変更された背景には、株価の上昇を重視する安倍元総理の意向があったと言われています。

いずれにしろ株式の割合が引き上げされた後は、四半期ごとの年金積立金の赤字額が、過去最高を更新する事が何度かありました。

その度に立憲民主を始めとする野党は、安部政権を強く批判していたため、年金積立金の資産配分は政権批判のネタになっていたのです。

ただ冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、令和7年(2025年)7〜9月期は国内債券の赤字を株式の黒字が穴埋めしているため、株式の割合の引き上げは良い面もあるのです。

また株式の割合が引き上げされた後は、四半期ごとの年金積立金の赤字額が過去最高を更新する事が何度かありましたが、全体として見ると赤字の四半期よりも黒字の四半期の方が多かったのです。

その結果として平成13年(2001年)度からの累積収益額が、180兆1,843億円に達しています。

ところで国民年金から支給される老齢基礎年金や、厚生年金保険から支給される老齢厚生年金は、新年度が始まる4月に賃金や物価の変動率を元にして、年金額を見直しています。

例えば賃金や物価の変動率がプラスになる時は、前年度よりも年金額が引き上げされます。

ただ賃金や物価の変動率から、次のようにマクロ経済スライドのスライド調整率を控除する場合が多いため、この分だけ年金額の引き上げが緩やかになるのです。

賃金や物価の変動率(令和7年度は2.3%)−スライド調整率(令和7年度は0.4%)=1.9%の引き上げ

このように賃金や物価の変動率からスライド調整率を控除して、年金額を意図的に減らすのは、年金財政を安定化させるためです。

そのため年金財政が安定化できたら、スライド調整率の控除は終了する見込みになっています。

厚生年金保険はスライド調整率による年金の減額を、もうすぐ終了できるため、年金の減額は少なくて済むのです。

一方で国民年金は数十年後まで、スライド調整率による年金の減額を続ける必要があるため、国民年金から支給される老齢基礎年金は実質的に3割減になる可能性があります。

この減額分を穴埋めするため、厚生年金保険の年金積立金を国民年金に流用するという案が、石破政権の時に出されたのですが、国民から大きな反発が起きました。

そのため撤回すると思ったのですが、立憲民主が修正案という助け船を出したため、石破政権は撤回しなくて済んだのです。

こういった事情により立憲民主は、年金積立金の運用が上手くいって、老齢基礎年金の減額を穴埋めする財源が増えた方が、好都合ではないかと思います。

また国内債券よりも株式の割合が高い方が、年金積立金の黒字は増えやすいため、今後の立憲民主は年金積立金の資産配分を、政権批判のネタにできないはずです。
posted by FPきむ at 19:52 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月04日

破綻が懸念される「みんなで大家さん」と「公的年金」の共通点と相違点

令和7年(2025年)10月2日の読売新聞を読んでいたら、不動産投資「みんなで大家さん」、計27商品で配当遅れ…弁護士に相談1000人超と題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『成田空港周辺の開発用地に出資すれば利益を得られるとする不動産投資商品「みんなで大家さん シリーズ成田」の配当が遅れている問題で、遅配がシリーズ成田以外の商品にも広がったことがわかった。

成田の遅配は3か月連続で、他商品も合わせると27商品で遅配が起きている。出資金の返金を求める提訴が相次いでおり、弁護士に相談している出資者は少なくとも1000人に上る。

事業者側が9月30日、出資者にメールを配信し、9月分の配当が行われなかったことが新たに判明した。「成田に加え、その他商品でも支払いを遅延せざるを得なくなった」などとしている。

配当は2か月に1回とされている。9月分の遅配に該当するのは、奇数月の配当を予定していた全18商品。

成田の9商品は7月分に続く遅配で、鹿児島県のバナナ熟成施設や三重県のテーマパークなどを対象に出資を募った9商品は、9月分で初めて遅配が起きた。

成田に関しては、偶数月予定の9商品でも8月分の配当が行われていない。この結果、遅配は計27商品となる。

「大家さん」は不動産特定共同事業法に基づく投資商品で、不動産会社「共生バンク」(東京都)を中心とするグループが手がけている』

以上のようになりますが、みんなで大家さんは以前から、ポンジ・スキームではないかという疑いがありました。

このポンジ・スキームとは高利回りの投資話を語って、新規の投資家から集めた資金を、既存の投資家へ分配する投資詐欺です。

なぜ詐欺なのかと言うと、その投資を実際には行わないで、新規の投資家から集めた資金を、既存の投資家に分配しているだけだからです。

約100年前のアメリカで実在した詐欺師のチャールズ・ポンジが、名前の由来になっています。

みんなで大家さんがポンジ・スキームと疑われたのは、不動産投資が行われていない、または上手くいっていないのに、高利回り(成田シリーズは年7%)の配当が支払われていたからです。

仮にポンジ・スキームであったとしても、新規の投資家から資金を集められているうちは、配当を支払うための原資を確保できるため、問題は顕在化しません。

しかし冒頭で紹介したような記事が多くの方に周知されて、新規の投資家から資金を集めるのが難しくなると、配当を支払うための原資を確保できなくなるため、問題が顕在化するのです。

また問題が顕在化すると、新規の投資家から資金を集められなくなるだけでなく、既存の投資家から出資金の返還を求められるので、みんなで大家さんは破綻が懸念されます。

みんなで大家さんよりも前から破綻が懸念されている公的年金は、現役世代から徴収した保険料を、年金受給者に年金として分配する、賦課方式という仕組みで運営されています。

また賦課方式で運営されている公的年金は、みんなで大家さんと共通点があると思います。

それは例えば新規の投資家(現役世代)から、配当(年金)として分配するための資金(保険料)を集められなくなると、制度を維持できなくなる点です。

ただ公的年金は一定の要件を満たす方(例えば国民年金は20歳以上60歳未満)を、強制加入させて保険料を徴収しています。

そのため公的年金は保険料が集められなくなる心配がない点は、みんなで大家さんと公的年金の大きな相違点になると思います。

また公的年金の財源は次のように、保険料だけでなく税金も活用されているため、増税で破綻を回避できる可能性があるというのも、大きな相違点になるのです。

・現役世代から徴収した保険料:約7割
・国庫負担(国の税金):約2割
・保険料の一部を積み立てした年金積立金の取り崩し:約1割

このように公的年金は制度が破綻しないようにする仕組みが、いくつも設けられています。

それでも公的年金の破綻を懸念するため、保険料を納付したくない方はいると思いますが、未納にするのは止めた方が良いのです。

その理由として例えば国民年金の場合、日本年金機構は未納者だけでなく世帯主や配偶者の財産(預貯金、車、不動産など)を差し押さえして、保険料を強制徴収するからです。

ただ現在は収入がまったくない、または収入が低い方が申請すると、保険料の納付を免除してもらえる場合があるため、必ず強制徴収される訳ではありません。
posted by FPきむ at 20:27 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする