令和6年(2024年)12月23日の日本経済新聞を読んでいたら、iDeCoなど一時金受け取り、退職金控除の縮小「5→10年」と題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。
『政府・与党は企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の一時金を受け取る際の課税を強化する。
退職金よりも先に受け取る場合に、控除を縮小する期間を現在の5年未満から10年未満に延ばす。
自民、公明両党が20日にまとめた2025年度の与党税制改正大綱に盛り込んだ。26年1月からの一時金受け取りに適用する』
以上のようになりますが、iDeCo(個人型の確定拠出年金)から60歳以降に支給される老齢給付金は、次のような3つの受け取り方があります。
・一時金
・年金(5年以上20年以下の期間)
・一時金と年金の併用
ただ厚生労働省が作成した資料によると、約9割の方は一時金を選択しているため、実際は三択ではなく一択のようです。
例えば60歳の時に老齢給付金を一時金で受け取った場合、5年空けて65歳以降に退職金を受け取ると、退職金に課税される税金が少なくなるという5年ルールがあります。
冒頭で紹介した記事によると与党は、この5年ルールを10年ルールに改正したいようです。
実際に改正されたとしたら、60歳の時に老齢給付金を一時金で受け取った場合、10年空けて70歳以降に退職金を受け取らないと、退職金に課税される税金が現在より多くなる可能性があります。
こういった改悪案の発表により、沢山の批判の声が挙がっているという報道がありますが、個人的には疑問を感じています。
その理由として令和6年(2024年)中に実施された、いくつかのアンケートの結果を見てみると、iDeCoに加入している方は2割〜3割しかいないからです。
また5年ルールは複雑なので、その内容を正確に理解している方は、かなり少数派だと思うからです。
もし正確に理解している場合には、一時金と年金を併用して受け取るなどの対策を、すでに検討しているかもしれません。
いずれにしろ今回の改悪の影響を受けるのは、定年退職する時などに退職金をもらえる方になります。
そのため自営業者やフリーランス、パートやアルバイトなどの非正規雇用者には、影響がない場合が多いのです。
一方で正社員として長期間に渡って働いている方は、影響を受ける方が少しはいると思います。
ただ退職金制度がない企業で働いている場合には、雇用形態や勤務期間の長短にかかわらず影響がないのです。
しかも退職金制度を実施しない企業が増えているため、残念ながら影響のない方が増加しているのです。
厚生労働省が実施した令和5年(2023年)の就労条件総合調査によると、退職金制度を実施する企業の割合は、5年前の80.5%から74.9%に低下しています。
また定年退職者1人辺りの平均退職給付額は、大卒で勤続35年以上の場合、5年前の2,173万円から2,037万円に低下しています。
こういった傾向は数十年前から続いているため、今後も退職金制度を実施しない企業は増えるだけでなく、その金額は低下していくと推測されます。
ただ退職金制度を廃止した企業でも、そのために備えていた資金を、企業型DC(企業型の確定拠出年金)という企業年金に、移行した場合もあるのです。
また退職金の全部を廃止するのではなく、その一部を企業型DCに移行した企業もあります。
企業年金は企業型DCの他に、厚生年金基金や確定給付企業年金もあるため、企業型DC以外の制度に移行した場合もあります。
これらの点から考えるとiDeCoの改悪を心配するよりも、まずは退職金がもらえるのかを心配した方が良いのです。
また退職金がもらえないのがわかったら、その代わりになる企業年金を実施していないのかを調べた方が良いのです。
退職金制度について知りたい方は、各企業が作成した就業規則や、その一部である退職金規定が参考になると思います。
2025年01月04日
2024年12月03日
厚生年金保険の積立金を国民年金が盗むのは「ねずみ小僧」のような行為
令和6年(2024年)11月25日の時事通信を読んでいたら、基礎年金3割底上げ案提示 安定財源の確保課題―厚労省と題した、次のような記事が掲載されていました。
『厚生労働省は25日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会で、将来世代の基礎年金(国民年金)の給付水準を底上げする改革案を示した。
基礎年金は少子高齢化の影響で今後も減額調整が続く見通し。財政が比較的安定している厚生年金の積立金と国費を投入することで目減り期間を短くし、給付水準を3割程度改善させる。ただ、実現には安定財源の確保が大きな課題となる。
与党などとの協議を経て、2025年の通常国会に提出する年金制度改革関連法案に盛り込む。
公的年金は、少子高齢化により保険料を納める現役世代が減少する中でも制度を保つため、「マクロ経済スライド」という仕組みで年金の給付水準を少しずつ抑えている。
過去30年と同様の経済状況が続いた場合、財政が脆弱(ぜいじゃく)な基礎年金は57年度まで年金額の目減りが続き、65歳時点の基礎年金の受給額は現在より3割低くなる。
基礎年金しか受け取れない自営業者やフリーランス、非正規雇用の長い会社員は低年金に陥るリスクがある。
改革案が実現すれば、基礎年金の減額期間が21年前倒しされて36年度に終了。給付水準は3割上がり、ほぼ全ての年金受給者が恩恵を受ける』
以上のようになりますが、日本の公的年金(国民年金、厚生年金保険)は原則として、積立方式ではなく賦課方式で運営されています。
前者の積立方式とは現役時代に納付した公的年金の保険料を、いずれかに積立しておき、高齢になってから受け取るというものです。
一方で後者の賦課方式とは、現役世代が納付した公的年金の保険料を、現在の高齢者に年金として分配するというものです。
ただすべての保険料を分配するのではなく、保険料の一部は将来に備えて積立しておき、その積立金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用しています。
仕送りのような仕組みの賦課方式の欠点としては、年金を受給する高齢者が増えると、その分だけ保険料を引き上げする必要がある点です。
また保険料の引き上げが続くと、現役世代の給与の手取りが少なくなるため、生活が苦しくなるのです。
そこで政府は現役世代が納付する保険料に上限を設定し、その上限で賄える範囲内に年金を減額する、マクロ経済スライドという制度を導入したのです。
マクロ経済スライドによる年金の減額は原則として、毎年少しずつ長期に渡って実施し、公的年金の財政が安定化したら停止します。
厚生年金保険は財政が比較的に豊かなので、あと数年で財政が安定する見通しですが、国民年金は財政が安定するまでに、30年くらいの期間がかかる見通しです。
これだけの長期間に渡って年金の減額を続けると、国民年金から支給される老齢基礎年金は、大幅(試算だと現在より3割減)に減ってしまうのです。
そこで政府は厚生年金保険の積立金を活用して、老齢基礎年金が減額する期間を短縮する計画なのです。
減額する期間が短縮されるのは良い事ですが、厚生年金保険の加入者は積立金を国民年金に盗まれるため、嫌な気持ちになるかもしれません。
ただ会社員や公務員などは厚生年金保険に加入すると同時に、国民年金にも加入しています。
そのため厚生年金保険から支給される老齢厚生年金だけでなく、国民年金から支給される老齢基礎年金も受給できるのです。
また厚生年金保険に加入する方の配偶者のうち、年収130万円未満などの要件を満たす方は、国民年金の保険料を納付しなくても老齢基礎年金を受給できるのです。
つまり老齢基礎年金が減額する期間が短縮されるのは、国民年金に加入している方だけでなく、厚生年金保険に加入している方や、その配偶者にもメリットがあります。
一方で40年間にわたって年収が1,080万円を超える方などの、一部の高所得者については、現在よりも受給できる年金が減ってしまうようです。
そのため厚生年金保険の積立金の活用は、高所得者が受給できるはずだった年金の一部を、低所得者が受給する年金に移転するという結果になるのです。
こういった点から考えると、厚生年金保険の積立金を国民年金が盗む行為は、大富豪から盗んだお金を貧しい庶民にばら撒いていたという、ねずみ小僧のようなものなのです。
ただねずみ小僧が大富豪から盗んだお金を、貧しい庶民にばら撒いていたというのは作り話みたいなので、厚生労働省の試算も作り話の可能性があると思います。
『厚生労働省は25日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)年金部会で、将来世代の基礎年金(国民年金)の給付水準を底上げする改革案を示した。
基礎年金は少子高齢化の影響で今後も減額調整が続く見通し。財政が比較的安定している厚生年金の積立金と国費を投入することで目減り期間を短くし、給付水準を3割程度改善させる。ただ、実現には安定財源の確保が大きな課題となる。
与党などとの協議を経て、2025年の通常国会に提出する年金制度改革関連法案に盛り込む。
公的年金は、少子高齢化により保険料を納める現役世代が減少する中でも制度を保つため、「マクロ経済スライド」という仕組みで年金の給付水準を少しずつ抑えている。
過去30年と同様の経済状況が続いた場合、財政が脆弱(ぜいじゃく)な基礎年金は57年度まで年金額の目減りが続き、65歳時点の基礎年金の受給額は現在より3割低くなる。
基礎年金しか受け取れない自営業者やフリーランス、非正規雇用の長い会社員は低年金に陥るリスクがある。
改革案が実現すれば、基礎年金の減額期間が21年前倒しされて36年度に終了。給付水準は3割上がり、ほぼ全ての年金受給者が恩恵を受ける』
以上のようになりますが、日本の公的年金(国民年金、厚生年金保険)は原則として、積立方式ではなく賦課方式で運営されています。
前者の積立方式とは現役時代に納付した公的年金の保険料を、いずれかに積立しておき、高齢になってから受け取るというものです。
一方で後者の賦課方式とは、現役世代が納付した公的年金の保険料を、現在の高齢者に年金として分配するというものです。
ただすべての保険料を分配するのではなく、保険料の一部は将来に備えて積立しておき、その積立金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用しています。
仕送りのような仕組みの賦課方式の欠点としては、年金を受給する高齢者が増えると、その分だけ保険料を引き上げする必要がある点です。
また保険料の引き上げが続くと、現役世代の給与の手取りが少なくなるため、生活が苦しくなるのです。
そこで政府は現役世代が納付する保険料に上限を設定し、その上限で賄える範囲内に年金を減額する、マクロ経済スライドという制度を導入したのです。
マクロ経済スライドによる年金の減額は原則として、毎年少しずつ長期に渡って実施し、公的年金の財政が安定化したら停止します。
厚生年金保険は財政が比較的に豊かなので、あと数年で財政が安定する見通しですが、国民年金は財政が安定するまでに、30年くらいの期間がかかる見通しです。
これだけの長期間に渡って年金の減額を続けると、国民年金から支給される老齢基礎年金は、大幅(試算だと現在より3割減)に減ってしまうのです。
そこで政府は厚生年金保険の積立金を活用して、老齢基礎年金が減額する期間を短縮する計画なのです。
減額する期間が短縮されるのは良い事ですが、厚生年金保険の加入者は積立金を国民年金に盗まれるため、嫌な気持ちになるかもしれません。
ただ会社員や公務員などは厚生年金保険に加入すると同時に、国民年金にも加入しています。
そのため厚生年金保険から支給される老齢厚生年金だけでなく、国民年金から支給される老齢基礎年金も受給できるのです。
また厚生年金保険に加入する方の配偶者のうち、年収130万円未満などの要件を満たす方は、国民年金の保険料を納付しなくても老齢基礎年金を受給できるのです。
つまり老齢基礎年金が減額する期間が短縮されるのは、国民年金に加入している方だけでなく、厚生年金保険に加入している方や、その配偶者にもメリットがあります。
一方で40年間にわたって年収が1,080万円を超える方などの、一部の高所得者については、現在よりも受給できる年金が減ってしまうようです。
そのため厚生年金保険の積立金の活用は、高所得者が受給できるはずだった年金の一部を、低所得者が受給する年金に移転するという結果になるのです。
こういった点から考えると、厚生年金保険の積立金を国民年金が盗む行為は、大富豪から盗んだお金を貧しい庶民にばら撒いていたという、ねずみ小僧のようなものなのです。
ただねずみ小僧が大富豪から盗んだお金を、貧しい庶民にばら撒いていたというのは作り話みたいなので、厚生労働省の試算も作り話の可能性があると思います。