2024年04月03日

「社会保険に加入すると50万円をもらえる」という情報は誤解が多い

令和6年(2024年)2月29日のNHK NEWS WEBを読んでいたら、「年収の壁」14万人余が助成金利用で「壁」超え社会保険加入へと題した、次のような記事が掲載されていました。

『厚生労働省は、いわゆる「年収の壁」を超えて働いても、従業員の手取り収入が減らないよう取り組む企業への助成金を利用して、これまでに14万人余りが「壁」を超えて社会保険に加入する見通しだと発表しました。

「年収の壁」は、パートなどで働く人が一定の年収を超えると、配偶者の扶養を外れ、社会保険料の支払いが生じることで手取りの収入が減るもので、従業員が「壁」を意識して、働く時間を抑えるため人手不足につながっていると指摘されています。

政府は対策として、去年、「年収106万円の壁」を超えても、手取り収入が減らないよう、保険料を補う手当を設けるなどした企業に、従業員1人当たり最大50万円を支給する助成金制度を創設しました。

厚生労働省は、この助成金を利用するため、1月末までに全国3749の事業所から計画の提出があったと発表しました。

これにより、14万4000人余りが2025年度末までに「壁」を超えて、厚生年金などの社会保険に加入する見通しだということです。

厚生労働省は「106万円の壁」を意識している可能性がある人は、およそ60万人いると推計していて、助成金の活用事例を紹介するなどして、さらに制度の周知を図ることにしています』

以上のようになりますが、求人に応募した方の採用が決まった時に、入社祝い金を支給する企業があります。

こういった入社祝い金を企業が支給するのは、できるだけ多くの方に応募してもらいたいからのようです。

政府が冒頭の記事に記載されている助成金制度を創設したのは、できるだけ多くの方に社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入して欲しいからだと思います。

このように両者の目的は似ているのですが、入社祝い金は入社した方に対して直接支給されます。

一方で助成金は企業に支給され、その企業が社会保険に加入した方に対して、助成金を原資にした社会保険適用促進手当を支給するのです。

そのため政府から直接にお金をもらえると思っていたとしたら、それは誤解になるのです。

直接もらえないのはおかしいと思う方がいるかもしれませんが、企業経由だと手続きを実施するのは企業であり、社会保険に加入した方は手続きが必要ないため、企業経由の方が良い面もあるのです。

ところで平成28年(2016年)10月から始まった、新たな社会保険の加入要件を紹介してみると、次のような5つになります。

(A)賃金の月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上
(B)1週間あたりの労働時間が20時間以上
(C)学生ではない
(D)雇用期間の見込みが2ケ月を超える
(E)従業員数が101人以上の企業、または社会保険への加入に関して労使が合意している101人未満の企業で働いている
※令和6年(2024年)10月からは「101人→51人」

これらの5つの加入要件をすべて満たすと社会保険に加入するため、(A)の106万円の壁を超えただけでは社会保険に加入しません。

また年収が106万円以上になった時に、社会保険の加入要件を満たすのではなく、賃金の月額が8万8,000円以上になった時に、社会保険の加入要件を満たします。

そうなると106万円の壁というよりも、8万8,000円の壁といった方が、より正確になると思います。

これに加えて賃金の月額が8万8,000円以上になるのかを判断する際には、通勤手当、残業手当、賞与などを含みません。

そのため例えば残業手当が増えて、一時的に賃金の月額が8万8,000円以上になったとしても、社会保険の加入要件は満たさないのです。

こういった点も誤解している方が多いと思うので、賃金の月額の中に含むものと含まないものを、整理しておいた方が良いと思います。

社会保険の保険料は原則として、給与の金額に比例して増えていきますが、賃金の月額が例えば8万8,000円だった場合、月給から控除される保険料は次のような金額になります。

健康保険:月4,391円(東京都の協会けんぽに加入する40歳未満)
厚生年金保険:月8,052円

両者を合わせると月1万2,443円(月4,391円+月8,052円)になるため、2年間の保険料の合計は29万8,632円(月1万2,443円×12ケ月×2年間)です。

この29万8,632円が社会保険に加入した方に対して、企業から社会保険適用促進手当として支給される金額の目安になります。

そのため社会保険に加入すると全員が一律に、50万円をもらえるというのは誤解になるのです。

また50万円をもらえると思っていた方は、損をした気持ちになるかもしれません。

ただ最大で2年間に渡って、手取りの減少を抑えられるというメリットがあるため、社会保険に加入しても良いと思うのなら、この機会を活用した方が良いと思います。
posted by FPきむ at 20:39 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月01日

当面は「実質賃金」の統計に加えて、「実質年金」の統計もとった方が良い

令和6年(2024年)2月6日のNHK NEWSWEBを読んでいたら、去年の実質賃金 前年比2.5%減 給与増も物価上昇に追いつかずと題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『去年1年間の働く人1人当たりの実質賃金は前の年と比べて2.5%減少しました。現金給与の総額は増えたものの物価上昇に追いつかず、実質賃金は2年連続でマイナスとなりました。

厚生労働省は従業員5人以上の事業所3万あまりを対象に「毎月勤労統計調査」を行っていて、6日、去年1年分の速報値を公表しました。

それによりますと、基本給や残業代、ボーナスなどを合わせた働く人1人当たりの現金給与の総額は月の平均で32万9859円となり、前の年に比べて1.2%増え、3年連続でプラスになりました。

内訳では、フルタイムが43万6849円、パートタイムが10万4570円で、いずれも統計を取り始めた平成5年以降最も高くなりました。

しかし、物価の上昇率が3.8%と42年ぶりの高い水準となり、物価変動を反映した実質賃金は前の年に比べ2.5%減少しました。実質賃金が前の年を下回るのは2年連続です。

去年12月分の速報値も公表され、現金給与の総額は前の年の同じ月と比べて1%増え、過去最長となる24か月連続のプラスになりました。しかし、実質賃金は1.9%減少し、21か月連続のマイナスとなっています。

厚生労働省は「去年の春闘で30年ぶりの賃上げ率になったことや人手不足の影響で給与総額が引き上げられたとみられるが物価の上昇に追いついていない状態が続いている。ことしの春闘でベアの水準がどれほど引き上げられるか注目したい」としています』

以上のようになりますが、日本経済はバブル崩壊後の数十年に渡って、デフレ(物価が継続的に下降する現象)が続いてきました。

しかし直近の2〜3年は状況が大きく変わり、インフレ(物価が継続的に上昇する現象)が問題になっています。

この背景にあるのは紛争などによる資源価格の上昇と、「1米ドル=150円」にまで達した歴史的な円安だと思います。

なぜ円安が進むとインフレになるのかというと、円安だと従来よりも高い値段で商品の原材料を輸入するため、その上昇分を商品の価格に転嫁するからです。

最近は資源価格の上昇が、かなり落ち着いてきたのですが、円安は相変わらず猛威を振るっています。

この理由はいくつかあると思いますが、今年1月から始まった新NISAが、大きな影響を与えていると思います。

なぜ新NISAで円安になるのかというと、例えば新NISA口座を通じて人気のある米国株を購入する際は、円を売って米ドルを買い、その米ドルで米国株を購入する場合が多いのです。

また円を売って米ドルを買う方が増えると、円安米ドル高が進むため、新NISAは円安要因になるのです。

いずれにしろ円安などに起因したインフレは、なかなか収まる気配がないため、実質賃金の低下は今後も続いていくと思います。

ところで老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)を初めとする公的年金は、新年度が始まる4月になると、賃金や物価の変動率に合わせて、定期的に金額を改定しているのです。

厚生労働省の発表によると令和6年(2024年)度は、前年度よりも2.7%の増額になります。

ただ本来なら賃金の上昇に合わせて、3.1%増額するはずだったので、本来よりも0.4%少ないのです。

年金は賃金と違って、実質と名目の統計は発表されていませんが、もし実質年金という統計があったのなら、0.4%のマイナスになります。

このように0.4%のマイナスになったのは、毎年少しずつ年金額を減らして、年金財政を安定化させるためです。

また令和5年(2023年)度は0.6%のマイナスだったので、2年連続で実質年金は減っています。

毎年少しずつ年金額を減らして、年金財政を安定化させるマクロ経済スライドは、平成16年(2004年)の年金改正の際に導入されましたが、年金額はほとんど減らなかったのです。

その理由としてデフレの際には、マクロ経済スライドを発動しないルールになっており、かつ日本経済は長らくデフレが続いたからです。

しかし近年の日本経済はデフレから脱したため、年金財政が安定化するまでの数十年に渡って、マクロ経済スライドによって年金額が減っていく可能性があります。

そのため当面は実質賃金の統計に加えて、実質年金の統計もとった方が良いのですが、年金の実質的な価値が減っているのを国民に知られたくないので、厚生労働省はやらないと思います。
posted by FPきむ at 20:32 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする