2019年09月13日

年金財政検証の中に隠された、専業主婦の優遇をこっそりと止める案

令和元年(2019年)8月27日の日本経済新聞を読んでいたら、年金、現状水準には68歳就労 財政検証 制度改革が急務と題した記事が掲載されておりましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。

60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。

財政検証は5年に1度実施する公的年金の「定期健診」にあたる。経済や人口に一定の前提を置き、年金財政への影響や給付水準の変化を試算する。今回は6つの経済前提を想定して2115年までを見通した。

試算では夫が会社員で60歳まで厚生年金に加入し、妻が専業主婦の世帯をモデルに、現役世代の手取り収入に対する年金額の割合である「所得代替率」が将来どう推移するかをはじいた。

政府は長期にわたって所得代替率50%以上を確保することを目標にしている。2019年度は現役の手取り平均額35.7万円に対して年金額は約22万円で、所得代替率は61.7%だった。

6つのシナリオのうち経済成長と労働参加が進む3つのケースでは将来の所得代替率が50%超を維持できる』

『ただ29年度以降の実質賃金上昇率が1.6%、実質経済成長率が0.9%という最も良いシナリオでも所得代替率は今と比べて16%下がる。

成長率が横ばい圏で推移する2つのシナリオでは50年までに所得代替率が50%を割り込む。最も厳しいマイナス成長の場合には国民年金の積立金が枯渇し、代替率が4割超も低下する』

以上のようになりますが、この記事は5年ごとに実施されている、公的年金制度の財政検証について、紹介したものになります。

この財政検証の中でもっとも重要な点は、モデル世帯の公的年金の給付水準が、年金の受給を始める65歳の時点で、現役世代の平均的な手取り賃金の50%を、長期的に維持できるかです。

つまり厚生労働省にとっては、年金の受給を始める65歳の時点で、50%を維持できていれば合格です。

そのため65歳以降に公的年金の給付水準が下がって、現役世代の平均的な手取り賃金の50%を下回ったとしても、不合格ではないのです。

何だかおかしいような気がしますが、「平均的な賃金で40年間働いた会社員の夫と、その間ずっと専業主婦だった妻の、2名で構成された世帯」という、モデル世帯の設定についても、かなりおかしいと思います。

夫婦共に20歳で結婚し、妻の方は60歳までの40年間に渡って、ずっと専業主婦という設定は、誰が考えても無理があります。

現代の日本において、このような設定の通りに生きられるのは、サザエさんくらいしか思い浮かびません。

もし実際にモデル世帯の妻と、まったく同じ方が存在した場合、原則65歳になった時に、満額の老齢基礎年金(2019年度は780,100円)を受給できるのです。

その理由として厚生年金保険に加入する会社員の、年収130円未満の配偶者(20歳〜60歳未満)は、国民年金の第3号被保険者になる事ができます。

また第3号被保険者であった期間は、国民年金の保険料を納付しなくても、納付したものとして取り扱われるため、20歳から60歳までの40年間に渡って、第3号被保険者であった場合には、保険料の未納期間がないからです。

国民年金の保険料を1円も納付しなくても、満額の老齢基礎年金を受給できるのですから、専業主婦はかなり優遇されていると思います。

ところで平成28年(2016年)10月からは、次のような要件をすべて満たすと、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入するようになりました。

(1)1週間あたりの勤務時間が20時間以上
(2)月額賃金が8万8,000円以上(年収では約106万円以上)
(3)勤務期間の見込みが1年以上
(4)学生ではない
(5)従業員数が501人以上の企業に勤務

また年金財政検証の中にある、「オプション試算」の部分を見たら、この(1)〜(5)の要件を、変更または廃止したと仮定した場合の、次のような3つの試算が行われておりました。

■(5)を廃止した場合の試算
これにより中小企業の従業員でも、社会保険に加入するようになります。

■(2)と(5)を廃止した場合の試算
雇用保険の加入要件とほぼ同じになるため、雇用保険に加入している方のほとんどは、社会保険にも加入するようになります。

■(2)を「5万8,000円以上」にした場合の試算
(2)以外の要件は廃止されるので、月額賃金が5万8,000円以上であれば、学生であっても社会保険に加入します。

以上のようになりますが、厚生労働省は年金財政検証の中で、このような試算を行っているのですから、段階的に実施される可能性が高いのです。

そうなると社会保険の適用が拡大されるたびに、第3号被保険者は徐々に減っていき、最終的には働いていない方、または収入がかなり低い方だけになります。

あくまで推測になりますが、第3号被保険者をいきなり廃止すると、国民の反発を招き、選挙で負けてしまうため、政府は社会保険の適用を拡大して、第3号被保険者を徐々に減らしていく方向に、切り替えた可能性があるのです。

ですから年金財政検証の中には、「専業主婦の優遇をこっそりと止める案」が、隠されていると考えるのです。
posted by FPきむ at 20:07 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月04日

iDeCo+が普及すると、「すぐに使えない退職金問題」が増えていく

令和元年(2019年)7月3日の朝日新聞を読んでいたら、中小企業向け私的年金、対象拡大へ 老後の資産形成促すと題した、次のような記事が掲載されておりました。

『厚生労働省は、中小企業が従業員の老後資産づくりを支援できる私的年金制度「iDeCo+(イデコプラス)」を使える対象を、今の「従業員100人以下」から「300人以下」に広げる方針を固めた。

公的年金の水準低下が見込まれるなか、小さな会社も働き手の資産形成をサポートしやすくして、より自助努力で老後に備えてもらう狙いがある。

年金には、国民年金・厚生年金といった公的年金のほか、補うものとして企業ごとの年金制度や、個人で入る「iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)」などの私的年金がある。

イデコは、加入者が自分で掛け金の額や運用方法を決める。掛け金や運用益は非課税になり、節税効果がある一方、運用次第で受取額は増減する。

60歳以降での受け取り方法は、分割して年金にするか、一度にもらう一時金かを選べる。5月時点の加入者は125万人。

昨年5月に始まったイデコプラスは、イデコに入っている従業員の掛け金の一部を、事業主が負担できる制度。自前の企業年金がない中小企業が利用できる。

掛け金は、従業員と事業主の合計で月5千〜2万3千円。仮に事業主が1千円を出せば、従業員は月4千円から始められる。

事業主にとっては、拠出分は損金扱いになり、従業員の福利厚生の強化もできる。一方、5月時点の導入企業は504にとどまる。

厚労省は、イデコプラスの対象企業を広げることで、イデコの普及拡大を目指す。社会保障審議会(厚労相の諮問機関)での議論を経て、来年の通常国会への関連法改正案の提出を目指す』

以上のようになりますが、老後資金を自助努力で準備するための制度として、確定拠出年金があります。

この確定拠出年金には「個人型」と「企業型」の2種類があり、前者の個人型は公的年金の加入者が、自ら加入手続きを行って、掛金もそれぞれが拠出します。

平成29年(2017年)1月1日から、従来は加入資格がなかった専業主婦や公務員なども、新たに加入できるようになり、またこのタイミングで「iDeCo(イデコ)」という愛称が、公募によって決まりました。

一方で後者の企業型は、名称の通りに企業が、従業員の福利厚生費として実施するため、掛金は原則的に企業が拠出するのですが、マッチング拠出を実施している場合には、従業員も上乗せで掛金を拠出できます。

このように個人型と企業型では、掛金を拠出する主体が違うのですが、拠出した掛金を何で運用するのかを、自分で決める必要がある点は共通しております。

例えば定期預金を中心にした運用をすると、お金はあまり増えていきませんが、値動きは緩やかになります。

それに対して投資信託を中心にした運用をすると、値動きは激しくなりますが、お金が増える可能性は高くなるのです。

それぞれの企業が新たに企業型の確定拠出年金を始める場合、所定の手続きを行う必要があるため、手間と時間がかかります。

また制度を始めた後には運営コストがかかるため、特に中小企業は企業型の確定拠出年金を始めにくかったのです。

そこで従業員がiDeCoの掛金を拠出する際に、事業主が追加で掛金を拠出できるようにする、「中小事業主掛金納付制度(愛称は「iDeCo+(イデコプラス)」が、平成30年(2018年)5月から開始されました。

現在は従業員の人数が100人以下の中小企業が、この制度を利用できますが、上記の記事によると300人以下に拡大されるようです。

iDeCo+の創設により中小企業は、企業型の確定拠出年金を実施しなくても、従業員が自助努力で行う老後資金の準備を、支援できるようになります。

ただ従業員が企業からの支援を受けるには、自ら加入手続きを行って、iDeCoに加入する必要があるため、ある程度の手間と時間がかかります。

またiDeCoに拠出した掛金とその運用益は、一時金と年金のどちらを選択しても、原則として障害状態になったり、死亡したりしないかぎり、最低でも60歳にならないと引き出せないのです。

ですからiDeCo+を実施し、従業員の老後資金の準備を支援しているから、退職一時金制度は実施しないという企業が増え、またこういった企業を定年前に退職すると、手元に残るのはiDeCoという、「すぐに使えない退職金」だけになってしまうのです。

例えば退職した後に起業したい、または海外に留学したいなどの理由により、退職後にまとまった資金が必要になる方にとっては、かなり迷惑な話であり、大問題だと思います。

そのため勤務先の企業がiDeCo+を始めるという話になったら、退職一時金制度はどうするつもりなのかを、注意深く見守った方が良いのです。

さすがに退職一時金制度を、完全に廃止する企業は少ないと思いますが、縮小だったら十分にありえます。
posted by FPきむ at 20:17 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする