2023年03月01日

令和5年(2023年)度から、特例的な繰下げみなし増額制度が開始へ

令和4年(2022年)度が始まるタイミングで、次のような3つの改正が実施されました。

(1)繰上げした場合の減額率の引き下げ
原則65歳から支給される老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)は、これらの金額が減っても良いと思うのなら、最大で60歳まで受給開始を繰上げ(前倒し)できます。

また繰上げした場合の1ヶ月辺りの減額率は0.5%だったので、60歳で受給を始めると30%減額したのです。

しかし令和4年(2022年)度からは、1ヶ月辺りの減額率が0.4%に引き下げられたので、60歳で受給を始めた時の減額率は24%まで緩和されました。

(2)繰下げできる上限年齢の引き上げ
原則65歳から支給される老齢年金は、これらの受給開始を繰下げ(後ろ倒し)すると、その期間に応じて金額が増えるのです。

また繰下げした場合の1ヶ月辺りの増額率は0.5%、繰下げの上限年齢は70歳だったので、最大の増額率は42%でした。

しかし令和4年(2022年)度からは、繰下げの上限年齢は75歳に引き上げされたので、最大の増額率は倍増の84%になったのです。

(3)在職老齢年金の基準額の統一
現在は老齢厚生年金の支給開始年齢を、60歳から65歳に引き上げしている最中になるため、生年月日によっては60〜64歳から、特別支給の老齢厚生年金を受給できます。

ただ60歳から65歳の間に厚生年金保険に加入している場合、「特別支給の老齢厚生年金の月額」と「月給+直近1年間の賞与÷12」の合計が28万円を超えると、特別支給の老齢厚生年金の支給停止が始まったのです。

また65歳以降は「老齢厚生年金の月額」と「月給+直近1年間の賞与÷12」の合計が47万円を超えると、老齢厚生年金の支給停止が始まったのです。

このような仕組みは在職老齢年金と呼ばれており、上記のように65歳を境にして、支給停止が始まる基準額が違いました。

しかし令和4年(2022年)度からは、この基準額が47万円に統一されたので、60〜64歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる方は、従来よりも有利になったのです。

以上のようになりますが、令和5年(2023年)度が始まるタイミングで実施される改正は、これらの改正をアップデートしたようなものになります。

例えば最近は物価が上昇しているだけなく、企業は物価上昇に対応するため、大幅な賃上げを実施しているのです。

こういった社会的な変化を受けて、(3)の47万円は令和5年(2023年)度から、48万円に引き上げされるため、老齢年金を更に受給しやすくなります。

また(2)をアップデートしたものとしては、令和5年(2023年)度から始まる、特例的な繰下げみなし増額制度があります。

年金の受給権には5年という時効があるため、請求するのが遅くなってしまうと、受給できない年金が発生するのです。

例えば75歳まで繰下げしようと思っていたけれども、71歳の時にまとまったお金が必要になったため、繰下げを利用しないで、過去の分の老齢年金を一括受給した方がいたとします。

こういった方の場合、65歳から66歳までの老齢年金は、すでに時効を迎えているため、この分は受給できなくなります。

しかし特例的な繰下げみなし増額制度が開始された後は、5年前の66歳の時に繰下げの申出があったとみなし、1年だけ繰下げして増額した老齢年金を、71歳の時に一括受給できるのです。

これにより請求するのが遅くなって、5年を過ぎてしまったとしても、不利にはならないのです。

ただ過去5年分の老齢年金を一括受給すると、その5年間の中にある各年の収入(所得)が上昇します。

そのため国民健康保険や介護保険の保険料、所得税や住民税などの税金が、増えてしまう場合があるのです。

また請求時点の5年前の日以前から、障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合や、80歳以降に老齢年金を請求する場合には、特例的な繰下げみなし増額制度は適用されないのです。

こういったデメリットがあるため、特例的な繰下げみなし増額制度が始まった後も、繰下げの利用者はあまり増えないと予想しております。
posted by FPきむ at 20:39 | 年金の最新情報と法改正 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月03日

年金未納の中条きよし参院議員と、業務怠慢の日本年金機構は一蓮托生

令和5年(2023年)1月25日の東京新聞を読んでいたら、中条きよし参院議員に「年金未納」が発覚した意味 政治家にとって「鬼門」とされる理由とはと題した記事が掲載されておりましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『昨夏の参院選の比例代表で初当選した中条きよし参院議員(76)が、年金保険料を納めていない時期があったことが明らかになった』

『未納問題は、先週発売の週刊文春の報道で発覚。中条氏は数十年間の未納期間があり、日本年金機構の職員が督促したが「年金なんていらない。払わない」と断られた、という内容だ』

『社会保険労務士の桶谷浩氏は「週刊誌が事実なら」という前提で「中条氏は年金保険料を自分で払って自分でもらう感覚のようだが、年金は世代間扶養。中条氏は親世代の分を払っていなかったことになる。国会議員として、その認識はどうか」と苦言を呈す。

「年金を当てにして暮らしている高齢者は全体の8割いる。よほど金持ちでないと『年金なんていらない』とは言えない」

ただ、報道内容の一部には首をかしげる。「通常、国民年金は60歳まで、厚生年金でも70歳までしか加入できず、76歳の人に保険料の督促がいくというのは考えられない」

維新が言う「対応」も「どうするのか」と疑問を投げかける。「未納分の支払いは2年で時効になる。とっくに過ぎているだろう。法律を変えない限り、未納分を返すこともできない。どこかに寄付するのか」

厚生労働省の担当者も取材に「国民年金の加入は20歳から60歳まで。一般論として76歳の方に督促状がいくことはない」と述べ「指定期限の翌日から2年間支払わなければ、保険料納付の権利は消滅し、払った月数分しか年金も受け取れない」と指摘する』

以上のようになりますが、令和4年(2022年)度の国民年金の保険料は、月額1万6,590円になります。

これを20歳から40歳までの40年間に渡って納付するため、生涯に納付する必要のある保険料は、796万3,200円(1万6,590円×12か月×40年)と算出できます。

週刊文春の報道によると、中条きよし参院議員が未納にしていた国民年金の保険料は、約750万円だったようです。

そうなると保険料の未納期間は数十年どころではなく、ほぼ全ての期間で納付していないのです。

ただ昭和21年(1946年)生まれの中条きよし参院議員が、20歳の誕生日を迎えた昭和41年(1966年)の国民年金の保険料は、次のような金額になります。

35歳以上:月額150円
35歳未満:月額100円

また国民年金の保険料が1万台を超えるようになったのは、平成5年(1993年)頃になります。

こういった点から考えると、未納にしていた約750万円には、国民年金の保険料だけでなく、延滞金も含まれているのかもしれません。

個人的には約750万円の内訳が、すごく気になったので、もし中条きよし参院議員が謝罪会見などを開くのなら、この辺りを明らかにして欲しいと思うのです。

もうひとつ気になったのは中条きよし参院議員から、「年金なんていらない。払わない」と断られた後の、日本年金機構の職員の対応です。

国民年金の保険料を未納している場合、日本年金機構は財産(預貯金、生命保険、自動車など)や給与などを差し押さえて、保険料を強制徴収できるのです。

そのため「年金なんていらない。払わない」と断られたのなら、日本年金機構の職員は中条きよし参院議員に対して、「それなら財産を差し押さえますよ」と、言い返して欲しかったと思います。

また「保険料を納付するだけの収入がないのなら、きちんと免除を受けて下さい」という説明を、実施しても良かったと思います。

所定の申請によって全額免除を受ければ、保険料を全額納付した場合の2分の1を受給できます。

これに加えて全額免除を受ける方が増えれば、国民年金の保険料の納付率が改善するため、中条きよし参院議員と日本年金機構の職員の、両者に対してメリットがあるのです。

冒頭で紹介した記事を読んだ限りでは、財産の差し押さえや免除の説明などを、日本年金機構の職員が実施したようには見えないので、業務怠慢と言っても過言ではないのです。

また年金未納の中条きよし参院議員と、業務怠慢の日本年金機構は一蓮托生なので、もし中条きよし参院議員が謝罪会見などを開くなら、日本年金機構の職員は同席すべきだと思います。
posted by FPきむ at 20:16 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする