令和6年(2024年)9月20日の朝日新聞を読んでいたら、国民年金保険料納付猶予制度、延長へ 新たに世帯主の所得制限も検討と題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。
『経済的な理由で国民年金(基礎年金)の保険料支払いを猶予する制度について、厚生労働省は20日、2030年までとなっている実施期限を延長する案を社会保障審議会の部会に提示した。
一定の利用者がいるため、延長が必要と判断した。一方で所得の高い世帯の利用者には新たな条件を設ける方針も示した。年末までに議論をまとめ、来年の制度改正を目指す。
国民年金保険料の「納付猶予制度」は、自営業や無職など国民年金の加入者が経済的に苦しく、保険料を納付できない時に猶予する仕組みだ。将来的な年金受給につなげてもらえるよう、10年間は保険料を追納できる。
猶予制度の対象は、本人と配偶者の前年所得が一定額以下の50歳未満の人。単身者の場合だと、67万円以下で認められる。
05年に制度が始まって以来、対象範囲を広げて期限を延長してきた。現行制度は、30年6月までの時限措置となっている』
以上のようになりますが、国民年金の被保険者(将来に年金を受給できる可能性のある方)は、次のような3種類に分かれます。
【第1号被保険者】
日本に住んでいる20歳以上60歳未満のうち、第2号被保険者や第3号被保険者に該当しない方は、第1号被保険者になります。
また現状で第1号被保険者になっているのは、自営業者、フリーランス、農林漁業者、無職の方、20歳以上の学生などです。
【第2号被保険者】
厚生年金保険の加入者は20歳未満や60歳以上の方も含めて、第2号被保険者になるため、厚生年金保険と国民年金に同時加入しています。
ただし老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている65歳以上の方は、厚生年金保険に加入している場合でも、第2号被保険者になりません。
また公的年金(国民年金、厚生年金保険)の保険料を納付した期間や、保険料の納付を免除された期間などが原則として10年以上あると、老齢基礎年金の受給資格期間を満たします。
【第3号被保険者】
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者は、所定の届出によって第3号被保険者になります。
ただし年収が130万円未満などの要件を満たす必要があるので、第2号被保険者に扶養されている配偶者であっても、第3号被保険者にならない方もいます。
これらの3種類の被保険者の中で、第2号被保険者と第3号被保険者については、各自が国民年金の保険料を納付する必要はありません。
その理由として第2号被保険者が納付した厚生年金保険の保険料の一部は、第2号被保険者と第3号被保険者の国民年金の保険料に変わるからです。
一方で第1号被保険者については、令和6年(2024年)度額で月16,980円となる国民年金の保険料を、各自が納付する必要があります。
ただし保険料を納付するのが難しい方がいるので、各種の免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除)、納付猶予、学生納付特例が設けられています。
20歳以上の学生(大学生など)は学生納付特例だけが対象になるため、他の制度は審査されません。
一方で20歳以上の学生以外については、「全額免除→納付猶予(50歳未満の場合)→4分の3免除→半額免除→4分の1免除」の順に審査されるのです。
原則的には本人、配偶者、世帯主の前年の所得が低いほど、保険料を納付する金額が少ないものを受けられます。
また納付猶予は本人と配偶者の所得のみが審査の対象になるため、世帯主の所得は考慮されません。
それぞれを受けた場合の令和6年(2024年)度額の保険料は、次のような金額になります。
・全額免除:0円
・納付猶予:0円
・4分の3免除:4,250円
・半額免除:8,490円
・4分の1免除:12,740円
また65歳になると国民年金から支給される老齢基礎年金は、財源の半分が税金になるため、次のような割合で老齢基礎年金の金額に反映されます。
・全額免除:1月分の保険料を納付した場合の2分の1
・納付猶予:反映されない
・4分の3免除:1月分の保険料を納付した場合の8分の5
・半額免除:1月分の保険料を納付した場合の8分の6
・4分の1免除:1月分の保険料を納付した場合の8分の7
このように納付猶予だけは老齢基礎年金の金額に反映されないのは、税金が投入されないからです。
そのため冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、納付猶予を受けられる期間が延長されるのは、良い面ばかりではないと思います。
また金銭的な余裕ができた時に、国民年金の保険料を追納するなら、納付猶予の期間を優先した方が良いのです。
2024年10月02日
2024年09月04日
国民年金の納付期間の5年延長が見送りされて困るのは「無課金おじさん」
令和6年(2024年)7月14日の日本経済新聞を読んでいたら、年金納付5年延長 増税恐れ「異例の早さ」で封印と題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。
『7月初旬に公表された公的年金財政の将来見通しを示す「財政検証」では、国民年金の保険料納付期間の5年延長の扱いが焦点の一つだった。
厚生年金に比べて劣る国民年金の給付水準を高めるのが狙いで、2025年の制度改正での実施を検討してきた。ただ財政検証で課題に挙げられたにもかかわらず早々と見送りが決まった』
以上のようになりますが、国民年金の保険料の納付期間は、現在は20歳から60歳までの40年間です。
これを将来的に5年延長して、20歳から65歳までの45年間にするという改正案があります。
厚生労働省は5年に1度のペースで、公的年金財政の将来見通しを示す財政検証を実施しています。
令和6年(2024年)は財政検証の年だったので、厚生労働省は同年7月初旬に試算結果を発表しました。
財政検証の際には5年延長する改正案を実施した時の、年金の給付水準の変化なども試算されています。
また財政検証の中で試算が実施されると、改正が実施される可能性がかなり高くなるのです。
そのため来年辺りの年金改正の際に、5年延長が現実になるのかと思っていたら、冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、早々と見送りが決まりました。
会社員や公務員などが加入している厚生年金保険の加入上限は、今のところは70歳になります。
また所定の加入要件を満たして、60歳以降も厚生年金保険に加入している間は、国民年金に加入する必要がないため、5年延長になっても影響はないのです。
厚生年金保険の加入者に扶養されている、年収130万円未満などの要件を満たす20歳以上60歳未満の配偶者は、所定の届出によって国民年金の第3号被保険者になります。
この第3号被保険者は国民年金に加入していますが、保険料を納付しなくても良いうえに、保険料を納付したという取り扱いになるのです。
国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった時に、第3号被保険者が保険料を納付するのかは、まだ明らかになっていません。
そのため60歳以降は保険料を納付する可能性もあれば、引き続き納付しなくても良い可能性もあります。
このように厚生年金保険の加入者には影響がなく、第3号被保険者は微妙な感じですが、国民年金の第1号被保険者は確実に負担が増えます。
また第1号被保険者に該当するのは、自営業者、フリーランス、農林漁業者、厚生年金保険の加入要件を満たさない短時間労働者、無職の方などです。
第1号被保険者が納付する国民年金の保険料は、令和6年(2024年)度額で月1万6,980円です。
この金額が将来的に変わらないと仮定すると、101万8,800円(1万6,980円×12月×5年)くらいは、新たに負担が増える可能性があります。
けっこうな負担になりますが、国民年金の保険料を1月納付すると、65歳から受給できる老齢基礎年金が1,700円くらい増えるのです。
そのため国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった後は、10万2,000円(1,700円×12月×5年)くらいは老齢基礎年金の増額が期待できます。
ただ無職の方や短時間労働者の方が、101万8,800円もの金額を負担するのは大変なので、60歳未満の方が利用できる免除制度が、60歳以降に延長されると思います。
この免除制度には全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除がありますが、いずれを受けられるのかは収入によって変わるのです。
例えば収入が低い短時間労働者の方が、全額免除を受けられる前年の年収の目安は次のような金額です。
・単身者:122万円以下
・配偶者などの扶養親族が1人いる方:157万円以下
老齢基礎年金の財源の2分の1は税金になるため、例えば全額免除を受けて保険料を納付しなくても、1ケ月あたり850円(1,700円÷2)くらい年金額が増えるのです。
つまり無課金でも保険料を納付した場合の半分を受給できるため、収入が低い方にとって5年延長は、かなりのメリットがあるのです。
また5年間に渡って全額免除を受けられた場合には、5万1,000円(850円×12月×5年)くらい老齢基礎年金が増えます。
パリオリンピックでは射撃の混合エアピストルで銀メダルを獲得した、トルコ人のユスフ・ディケチさんが、「無課金おじさん」と呼ばれて話題になりました。
全額免除のメリットから考えると、5年延長が見送りされて困るのは、全額免除で保険料は無課金なのに年金額が増える予定だった、年金界の「無課金おじさん」なのかもしれません。
『7月初旬に公表された公的年金財政の将来見通しを示す「財政検証」では、国民年金の保険料納付期間の5年延長の扱いが焦点の一つだった。
厚生年金に比べて劣る国民年金の給付水準を高めるのが狙いで、2025年の制度改正での実施を検討してきた。ただ財政検証で課題に挙げられたにもかかわらず早々と見送りが決まった』
以上のようになりますが、国民年金の保険料の納付期間は、現在は20歳から60歳までの40年間です。
これを将来的に5年延長して、20歳から65歳までの45年間にするという改正案があります。
厚生労働省は5年に1度のペースで、公的年金財政の将来見通しを示す財政検証を実施しています。
令和6年(2024年)は財政検証の年だったので、厚生労働省は同年7月初旬に試算結果を発表しました。
財政検証の際には5年延長する改正案を実施した時の、年金の給付水準の変化なども試算されています。
また財政検証の中で試算が実施されると、改正が実施される可能性がかなり高くなるのです。
そのため来年辺りの年金改正の際に、5年延長が現実になるのかと思っていたら、冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、早々と見送りが決まりました。
会社員や公務員などが加入している厚生年金保険の加入上限は、今のところは70歳になります。
また所定の加入要件を満たして、60歳以降も厚生年金保険に加入している間は、国民年金に加入する必要がないため、5年延長になっても影響はないのです。
厚生年金保険の加入者に扶養されている、年収130万円未満などの要件を満たす20歳以上60歳未満の配偶者は、所定の届出によって国民年金の第3号被保険者になります。
この第3号被保険者は国民年金に加入していますが、保険料を納付しなくても良いうえに、保険料を納付したという取り扱いになるのです。
国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった時に、第3号被保険者が保険料を納付するのかは、まだ明らかになっていません。
そのため60歳以降は保険料を納付する可能性もあれば、引き続き納付しなくても良い可能性もあります。
このように厚生年金保険の加入者には影響がなく、第3号被保険者は微妙な感じですが、国民年金の第1号被保険者は確実に負担が増えます。
また第1号被保険者に該当するのは、自営業者、フリーランス、農林漁業者、厚生年金保険の加入要件を満たさない短時間労働者、無職の方などです。
第1号被保険者が納付する国民年金の保険料は、令和6年(2024年)度額で月1万6,980円です。
この金額が将来的に変わらないと仮定すると、101万8,800円(1万6,980円×12月×5年)くらいは、新たに負担が増える可能性があります。
けっこうな負担になりますが、国民年金の保険料を1月納付すると、65歳から受給できる老齢基礎年金が1,700円くらい増えるのです。
そのため国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった後は、10万2,000円(1,700円×12月×5年)くらいは老齢基礎年金の増額が期待できます。
ただ無職の方や短時間労働者の方が、101万8,800円もの金額を負担するのは大変なので、60歳未満の方が利用できる免除制度が、60歳以降に延長されると思います。
この免除制度には全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除がありますが、いずれを受けられるのかは収入によって変わるのです。
例えば収入が低い短時間労働者の方が、全額免除を受けられる前年の年収の目安は次のような金額です。
・単身者:122万円以下
・配偶者などの扶養親族が1人いる方:157万円以下
老齢基礎年金の財源の2分の1は税金になるため、例えば全額免除を受けて保険料を納付しなくても、1ケ月あたり850円(1,700円÷2)くらい年金額が増えるのです。
つまり無課金でも保険料を納付した場合の半分を受給できるため、収入が低い方にとって5年延長は、かなりのメリットがあるのです。
また5年間に渡って全額免除を受けられた場合には、5万1,000円(850円×12月×5年)くらい老齢基礎年金が増えます。
パリオリンピックでは射撃の混合エアピストルで銀メダルを獲得した、トルコ人のユスフ・ディケチさんが、「無課金おじさん」と呼ばれて話題になりました。
全額免除のメリットから考えると、5年延長が見送りされて困るのは、全額免除で保険料は無課金なのに年金額が増える予定だった、年金界の「無課金おじさん」なのかもしれません。