令和4年(2022年)度が始まるタイミングで、次のような3つの改正が実施されました。
(1)繰上げした場合の減額率の引き下げ
原則65歳から支給される老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金など)は、これらの金額が減っても良いと思うのなら、最大で60歳まで受給開始を繰上げ(前倒し)できます。
また繰上げした場合の1ヶ月辺りの減額率は0.5%だったので、60歳で受給を始めると30%減額したのです。
しかし令和4年(2022年)度からは、1ヶ月辺りの減額率が0.4%に引き下げられたので、60歳で受給を始めた時の減額率は24%まで緩和されました。
(2)繰下げできる上限年齢の引き上げ
原則65歳から支給される老齢年金は、これらの受給開始を繰下げ(後ろ倒し)すると、その期間に応じて金額が増えるのです。
また繰下げした場合の1ヶ月辺りの増額率は0.5%、繰下げの上限年齢は70歳だったので、最大の増額率は42%でした。
しかし令和4年(2022年)度からは、繰下げの上限年齢は75歳に引き上げされたので、最大の増額率は倍増の84%になったのです。
(3)在職老齢年金の基準額の統一
現在は老齢厚生年金の支給開始年齢を、60歳から65歳に引き上げしている最中になるため、生年月日によっては60〜64歳から、特別支給の老齢厚生年金を受給できます。
ただ60歳から65歳の間に厚生年金保険に加入している場合、「特別支給の老齢厚生年金の月額」と「月給+直近1年間の賞与÷12」の合計が28万円を超えると、特別支給の老齢厚生年金の支給停止が始まったのです。
また65歳以降は「老齢厚生年金の月額」と「月給+直近1年間の賞与÷12」の合計が47万円を超えると、老齢厚生年金の支給停止が始まったのです。
このような仕組みは在職老齢年金と呼ばれており、上記のように65歳を境にして、支給停止が始まる基準額が違いました。
しかし令和4年(2022年)度からは、この基準額が47万円に統一されたので、60〜64歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる方は、従来よりも有利になったのです。
以上のようになりますが、令和5年(2023年)度が始まるタイミングで実施される改正は、これらの改正をアップデートしたようなものになります。
例えば最近は物価が上昇しているだけなく、企業は物価上昇に対応するため、大幅な賃上げを実施しているのです。
こういった社会的な変化を受けて、(3)の47万円は令和5年(2023年)度から、48万円に引き上げされるため、老齢年金を更に受給しやすくなります。
また(2)をアップデートしたものとしては、令和5年(2023年)度から始まる、特例的な繰下げみなし増額制度があります。
年金の受給権には5年という時効があるため、請求するのが遅くなってしまうと、受給できない年金が発生するのです。
例えば75歳まで繰下げしようと思っていたけれども、71歳の時にまとまったお金が必要になったため、繰下げを利用しないで、過去の分の老齢年金を一括受給した方がいたとします。
こういった方の場合、65歳から66歳までの老齢年金は、すでに時効を迎えているため、この分は受給できなくなります。
しかし特例的な繰下げみなし増額制度が開始された後は、5年前の66歳の時に繰下げの申出があったとみなし、1年だけ繰下げして増額した老齢年金を、71歳の時に一括受給できるのです。
これにより請求するのが遅くなって、5年を過ぎてしまったとしても、不利にはならないのです。
ただ過去5年分の老齢年金を一括受給すると、その5年間の中にある各年の収入(所得)が上昇します。
そのため国民健康保険や介護保険の保険料、所得税や住民税などの税金が、増えてしまう場合があるのです。
また請求時点の5年前の日以前から、障害年金や遺族年金を受け取る権利がある場合や、80歳以降に老齢年金を請求する場合には、特例的な繰下げみなし増額制度は適用されないのです。
こういったデメリットがあるため、特例的な繰下げみなし増額制度が始まった後も、繰下げの利用者はあまり増えないと予想しております。



