先日障害年金というヒント(監修:中井宏、著:岩崎眞弓、白石美佐子、中川洋子、中辻優、吉原邦明)という本を読みましたが、障害年金について実例を交えながら、わかりやすく解説しており、障害年金を勉強したい方の入門書になると思いました。
また障害年金を請求する時のコツがわかる一冊だと思いましたが、特に気になった部分を紹介すると次のようになります。
(1)初診日と考えられる日は複数ある
障害年金の請求手続きは初診日の確認から始まりますが、年金に関する本を読むと初診日について、「障害の原因となった病気やケガなどで、初めて医師または歯科医師の診察を受けた日」と、記載されております。
しかし障害年金というヒントを読むと次のように、初診日と考えられる日は複数ある事がわかり、単純に初めて医師などの診察を受けた日ではないのです。
『しかし、ここにたとえば、職場の健診で血糖値が高いと指摘されながらも忙しさにかまけて長年受診もせず放置していた元サラリーマンのAさんという人物がいたとします。
その後、自営業に転じたAさんは、咽の渇きやすさや疲労感という自覚症状はあったものの、なおも放置していたところ、あるとき急に眼前が赤く霞みはじめ、そこで慌てて病院に駆け込んで医師から初めて糖尿病性の疾患を告げられたとしたらどうなるでしょうか?
Aさんの場合、その初診日は病院に駆け込んだ日ではなく、職場の健診で最初に「血糖値が高いですね。一度、病院を受診してください」と告げられた日になります』
『たとえば精神疾患の場合でも、眠れないなどの不調を訴えて内科にかかり、そこでとりあえず睡眠導入剤を処方されただけであっても、その日が初診日とされることもあります』
『同一の傷病で転院があった場合は、一番初めに医師の診察を受けた日。たとえ一番初めの診断が誤診であったとしても(正確な傷病名が定まっていなくても)、最初に医師の診察を受けた日が初診日となります』
(2)他の病気やケガで障害年金を請求する
障害年金の請求手続きをする際には、メインに治療している病気やケガで請求しようと考えてしまいますが、障害年金というヒントを読むと、あえて他の病気やケガで請求した方が良い場合について記載されております。
『脳脊髄液減少症が提唱された時期。その病名を出しても、請求が通りにくい状況がありました。そこで社労士の方々は、髄液の漏れに伴う「うつ症状」に注目したのです。
「脳脊髄液減少症」では請求が通らなくても脳脊髄液減少症によって現れる「うつ症状」で請求を通すというわけです。社労士のすすめにより心療内科に通いはじめた患者で、精神障害年金を受給できた人の数は少なくありません』
(3)判別が難しい場合には早めに社労士に依頼する
病気やケガの症状が重く、障害年金を受給できる可能性が高い場合には、年金事務所などに相談しながら、自分で請求手続きをしても良いかと思います。
しかし障害年金を受給できるか否か判別が難しい場合には、早めに障害年金を専門とする社労士(社会保険労務士)に依頼した方が良いのですが、その理由について障害年金というヒントには、次のように記載されております
『ただ、よくあるのは「着手金の2万円を支払うのが惜しくて、とりあえず自分でやってみたけど、不支給だった。どうにかなりませんか?」というご相談。
もちろんその時点から、できるかぎりのサポートをさせていただくのですが、たとえば前述のB子さんのように、一度書かれた書類を撤回する作業は、マイナスからのスタートになりますから、時間もかかるし、難易度も上がります。
事後重症請求の方であれば、1カ月遅くなれば、障害基礎年金2級なら毎月6万5000円ずつを捨てていくことになります。最初にかかる2万円の着手金を惜しんだがために、本命である障害年金の受け取りが遅くなってしまっては、本末転倒になってしまいます』
(4)障害認定基準などについて勉強しておく
全ての医師が障害年金に詳しいわけではないので、障害認定基準(3月29日のブログを参照)などについて勉強しておき、病気やケガが悪化したら、自ら診断書を請求するくらいの方が良いのですが、障害年金というヒントには次のように記載されております。
『さて、このような場合、患者さんからよく聞くのは「医師のくせに障害年金のことをまったく知らなかった。長年通っているのにまったく教えてくれなかった」というグチ。
確かに医師は、診断書を書ける唯一の職業で、その診断書によって等級が決まるわけですから、障害年金のことを熟知しているイメージがあります。
障害年金の認定基準に達した瞬間に、医師から積極的に教えてもらえて、自分は書類に名前を書くだけ、なんて簡単に考えている方もいるようです。
でも、考えてみてください。医師の仕事は、病気を治すことです。年金の専門家ではありません。自分が加入している年金でさえ知らないような医師がたくさんいます。
障害認定基準や診断書を見たことのない方も、医師免許があれば診断書を書けるのです』
以上のようになりますが、著者の5名は障害年金を専門する社労士なので、この他にも様々なコツが記載されており、とても参考になる一冊だと思いました。
2015年04月13日
2015年02月18日
「社会保障亡国論」は年金の危機が遠い未来でない事を警告する一冊
先日社会保障亡国論(著:鈴木亘)という本を読みましたが、この本は年金、医療保険、介護保険、生活保護、保育といった社会保障の現状を分析して、その改革案を提案しております。
特に年金については様々な資料や、経済学の知識を用いて、冷静に分析されていると思いましたが、特に気になった部分を紹介しますと次のようになります。
(1)積立金の枯渇はあと25年程度でやってくる
現在の日本の公的年金は原則的に、現役世代が支払った保険料を、その時の年金受給者へ配分するという、「賦課方式」で運営されております。
ただ実際は現役世代が支払った保険料だけでは足りないので、年金受給者が少なかった頃に貯め、運用してきた積立金を取り崩して、年金受給者へ配分しております。
厚生労働省が発表した年金財政の見通しでは、6月4日のブログに記載しましたように、積立金は最も悲観的なシナリオでも、2055年度までなくならないとしておりますが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『筆者の試算では、最近の経済状況好転やアベノミクスによる株高を織り込んだとしても、このままでは厚生年金は2038年度、国民年金は2040年度に積立金が枯渇すると見込まれます…(中略)…
日本の年金財政は運用の如何にかかわらず、保険料収入よりも年金支出の方がはるかに多いという構造的な問題を抱えています』
年金財政の検証が行なわれた際には、その前提となる数字が現実的ではないと、ジャーナリストなどから批判をあびておりましたが、あと25年程度でなくなってしまうという予測には、かなり驚いてしまいました。
こういった事態にならないようにするため厚生労働省は、10月21日のブログに記載しましたように、物価が下降する局面でもマクロ経済スライドを適用できるように、法改正したい意向のようですが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『今後、マクロ経済スライドが発動されるようになったとしても、毎年1%程度の小幅な給付削減では、積立金取り崩しのスピードに全く追い付かず、積立金は途中で枯渇してしまうことになります』
平成16年(2004年)にマクロ経済スライドが導入された際、その当時の厚生労働大臣であった坂口力さんは、「100年間は年金財政を安定化できる」と、説明していた記憶がありますが、実際には100年の途中、しかも半分の50年にも到達できず、積立金は枯渇してしまうのです。
(2)70歳程度までの引き上げは十分にありあえる
平成23年(2011年)10月に厚生労働省は、年金の支給開始年齢を現在の原則65歳から、68歳に引き上げる案を発表しましたが、経済界や労働団体などから強い反発の声が上がり、この案は取り下げられました。
しかし完全に消え去った訳ではなく、その後も何度か同じような案が登場して、マスコミなどから批判をあびましたが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『現在の3年ごとに1歳の引き上げペースを65歳以上の引き上げにおいても維持し、支給開始年齢を70歳まで引き上げるペースが灰色の実線です。
退職年齢がその分引き上げられて、その間の在職老齢年金(働きながら年金も受け取る制度)が必要なくなるという楽観的な前提で計算しました。
これをみると、2038年度に積立金が枯渇する現状よりは財政状況がかなり改善しますが、それでも残念ながら2054年度には積立金が枯渇してしまいます。
純粋に支給開始年齢引き上げだけで、長期的に100年安心プランの財政状況に戻るようにするためには、驚くべきことに、75.5歳まで支給開始年齢を引き上げなければなりません…(中略)…
実際には67歳〜68歳か、せいぜい70歳までにして、他の改革(マクロ経済スライドの強化や保険料の再引き上げ)と組み合わせて、100年間の長期的財政均衡を図るということが現実的であると思われます』
個人的にも9月5日のブログに記載しましたように、健康寿命から考えると、75歳への引き上げはないにしても、70歳程度への引き上げは、十分にありえると考えております。
(3)消費税ではなく相続税が安定財源
社会保障の財源を確保するには、消費税率を上げるしかないと、多くの方が考えているかと思いますが、社会保障亡国論には次のように、消費税より相続税と記載されております。
『筆者は現行の相続税はいったん廃止し、社会保障財源に充てることを目的に「新型相続税」を創設するべきだと考えています。社会保障制度は全ての国民が受益を得る制度ですから、非課税枠は認めず、広く薄く一律に課税を行います…(中略)…
高齢化社会というのは要するに死亡する高齢者の数が増えることに他なりませんから、高齢化社会の進展とともに自動的な相続税収の増加が期待できます。
消費税とは異なり、まさに真の意味での高齢化時代の安定財源と言えるでしょう。加えて、新型相続税には消費税引き上げよりも、ずっと優れた面があります。
第一に、相続税は、消費税のように景気を悪化させることなく、むしろ景気を刺激する効果があります。なぜならば、高齢者は相続税を課税されまいと積極的に消費を増やしたり、子どもや孫への生前贈与を増やそうと反応すると考えられます』
『相続税や資産課税は今が「取り時」であるということです。今後、人口減少で不動産需要が低迷しますから、将来的には日本全体の不動産価格は下がってゆくものと思われます』
以上のようになりますが、日本の公的年金の危機は遠い未来でなく、またそれを回避するための改革も待ったなしの状況であると、社会保障亡国論は警告しているように感じます。
特に年金については様々な資料や、経済学の知識を用いて、冷静に分析されていると思いましたが、特に気になった部分を紹介しますと次のようになります。
(1)積立金の枯渇はあと25年程度でやってくる
現在の日本の公的年金は原則的に、現役世代が支払った保険料を、その時の年金受給者へ配分するという、「賦課方式」で運営されております。
ただ実際は現役世代が支払った保険料だけでは足りないので、年金受給者が少なかった頃に貯め、運用してきた積立金を取り崩して、年金受給者へ配分しております。
厚生労働省が発表した年金財政の見通しでは、6月4日のブログに記載しましたように、積立金は最も悲観的なシナリオでも、2055年度までなくならないとしておりますが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『筆者の試算では、最近の経済状況好転やアベノミクスによる株高を織り込んだとしても、このままでは厚生年金は2038年度、国民年金は2040年度に積立金が枯渇すると見込まれます…(中略)…
日本の年金財政は運用の如何にかかわらず、保険料収入よりも年金支出の方がはるかに多いという構造的な問題を抱えています』
年金財政の検証が行なわれた際には、その前提となる数字が現実的ではないと、ジャーナリストなどから批判をあびておりましたが、あと25年程度でなくなってしまうという予測には、かなり驚いてしまいました。
こういった事態にならないようにするため厚生労働省は、10月21日のブログに記載しましたように、物価が下降する局面でもマクロ経済スライドを適用できるように、法改正したい意向のようですが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『今後、マクロ経済スライドが発動されるようになったとしても、毎年1%程度の小幅な給付削減では、積立金取り崩しのスピードに全く追い付かず、積立金は途中で枯渇してしまうことになります』
平成16年(2004年)にマクロ経済スライドが導入された際、その当時の厚生労働大臣であった坂口力さんは、「100年間は年金財政を安定化できる」と、説明していた記憶がありますが、実際には100年の途中、しかも半分の50年にも到達できず、積立金は枯渇してしまうのです。
(2)70歳程度までの引き上げは十分にありあえる
平成23年(2011年)10月に厚生労働省は、年金の支給開始年齢を現在の原則65歳から、68歳に引き上げる案を発表しましたが、経済界や労働団体などから強い反発の声が上がり、この案は取り下げられました。
しかし完全に消え去った訳ではなく、その後も何度か同じような案が登場して、マスコミなどから批判をあびましたが、社会保障亡国論には次のように記載されております。
『現在の3年ごとに1歳の引き上げペースを65歳以上の引き上げにおいても維持し、支給開始年齢を70歳まで引き上げるペースが灰色の実線です。
退職年齢がその分引き上げられて、その間の在職老齢年金(働きながら年金も受け取る制度)が必要なくなるという楽観的な前提で計算しました。
これをみると、2038年度に積立金が枯渇する現状よりは財政状況がかなり改善しますが、それでも残念ながら2054年度には積立金が枯渇してしまいます。
純粋に支給開始年齢引き上げだけで、長期的に100年安心プランの財政状況に戻るようにするためには、驚くべきことに、75.5歳まで支給開始年齢を引き上げなければなりません…(中略)…
実際には67歳〜68歳か、せいぜい70歳までにして、他の改革(マクロ経済スライドの強化や保険料の再引き上げ)と組み合わせて、100年間の長期的財政均衡を図るということが現実的であると思われます』
個人的にも9月5日のブログに記載しましたように、健康寿命から考えると、75歳への引き上げはないにしても、70歳程度への引き上げは、十分にありえると考えております。
(3)消費税ではなく相続税が安定財源
社会保障の財源を確保するには、消費税率を上げるしかないと、多くの方が考えているかと思いますが、社会保障亡国論には次のように、消費税より相続税と記載されております。
『筆者は現行の相続税はいったん廃止し、社会保障財源に充てることを目的に「新型相続税」を創設するべきだと考えています。社会保障制度は全ての国民が受益を得る制度ですから、非課税枠は認めず、広く薄く一律に課税を行います…(中略)…
高齢化社会というのは要するに死亡する高齢者の数が増えることに他なりませんから、高齢化社会の進展とともに自動的な相続税収の増加が期待できます。
消費税とは異なり、まさに真の意味での高齢化時代の安定財源と言えるでしょう。加えて、新型相続税には消費税引き上げよりも、ずっと優れた面があります。
第一に、相続税は、消費税のように景気を悪化させることなく、むしろ景気を刺激する効果があります。なぜならば、高齢者は相続税を課税されまいと積極的に消費を増やしたり、子どもや孫への生前贈与を増やそうと反応すると考えられます』
『相続税や資産課税は今が「取り時」であるということです。今後、人口減少で不動産需要が低迷しますから、将来的には日本全体の不動産価格は下がってゆくものと思われます』
以上のようになりますが、日本の公的年金の危機は遠い未来でなく、またそれを回避するための改革も待ったなしの状況であると、社会保障亡国論は警告しているように感じます。