離婚時の年金分割が無事に終わると、夫婦それぞれが新しい生活を始める事になりますが、再婚などの生活の変化があった場合に、分割された年金記録はどのような影響を受けるかについて、考えてみたいと思います。
また年金分割後の生活に対応するための、生命保険の見直しや新規加入についても、少しだけ触れてみたいと思います。
(1)第2号改定者の生活と生命保険
第2号改定者とは年金の分割を受ける側ですが、今回は夫が会社員で妻が年金分割を受けた第2号改定者という設定で、話を進めて行きます。
その前に少しだけ遺族厚生年金の話をしますが、婚姻期間中に会社員である夫が死亡した場合、妻は一部の例外者を除き遺族厚生年金を受給する事ができます。
ただこの妻が再婚(事実婚関係を含む)をすると、遺族厚生年金の受給権を失権しますので、それ以降は遺族厚生年金を受給できなくなります。
一度失権をしますと復活する事はありませんので、もし再婚相手と離婚したとしても、再び遺族厚生年金を受給する事はできません。
一方離婚時に夫から分割された年金記録は、妻の年金記録として確定しますので、再婚をしても消える事はありません。
また年金分割を受けた夫が離婚後に死亡をしても、または再婚をしたとしても、妻の年金記録は何の影響も受けません。
ただ妻が分割を受けた年金記録は11月6日のブログと、11月8日のブログで解説しましたように「離婚時みなし被保険者期間」と呼ばれ、少しだけ特殊な取扱いを受けるので注意が必要です。
このように一部の例外はありますが、離婚時に分割を受けた年金記録は原則的に妻自身のものになりますので、「退職するまでに準備しなければならない目標額」を減らす事ができます。
退職するまでに準備しなければならない目標額=退職後の総資産(退職金+退職後の総収入)−退職後の総支出{(生活資金+予備資金+ゆとり資金)×30年分}
つまり「退職後の総収入」のひとつである年金が増えるので、「退職するまでに準備しなければならない目標額」が減る事になる訳ですが、どれくらい年金が増えるかについては、10月23日のブログを参照して下さい。
また妻が離婚後に再就職をして厚生年金保険に加入しており、かつ老齢基礎年金の受給資格期間(最低でも原則25年は保険料を納付)を満たしている場合、妻が死亡した時に子供や再婚相手に支給される遺族厚生年金は、年金分割を受けた分だけ増額されます。
ですから妻が子供や再婚相手のために生命保険に加入するなら、遺族厚生年金が増額した分だけ、死亡保険金の金額を減らす事ができます。
(2)第1号改定者の生活と生命保険
第1号改定者とは年金を分割する側ですが、今回は夫が会社員で第1号改定者という設定とし、離婚時に妻に対して年金を分割したとします。
先程書きましたように妻に分割した年金記録は、妻が再婚をしても死亡をしたとしても戻ってくる事はありませんから、「退職するまでに準備しなければならない目標額」を増額しなければなりません。
上記の目標額に到達する方法として会社員の方には、確定拠出年金、個人年金、投資信託などの選択肢があります。
また再婚をした場合に新しい妻に対して支給される遺族厚生年金は、年金分割をする前よりも少なくなりますので、生命保険の死亡保険金をその分だけ増額する必要があります。
夫の死亡後に妻に対して支給される遺族厚生年金の金額は、老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3程度になりますので、「ねんきん定期便」などを使って目安額を計算してみましょう。
2011年11月20日
2011年11月17日
公務員の年金分割
離婚時の年金分割におきまして公務員の場合、厚生年金保険に加入している会社員とは少し違う部分がありますので、その点について少しだけ解説してみたいと思います。
(1)ねんきん定期便の違い
10月23日のブログでは「ねんきん定期便」を活用した、年金分割後の具体的な金額の計算方法を紹介しましたが、過去に公務員だった方に送付される「ねんきん定期便」に記載されている老齢基礎年金の金額は、共済組合の加入期間が反映されておりません。
これは公務員の方には老齢基礎年金が支給されないという訳ではなく、公務員の方は国民年金の第2号被保険者になりますので、60歳までに最低でも原則25年間保険料を納付すれば、原則65歳から老齢基礎年金が支給されます。
そこでまず正確な老齢基礎年金の計算をしなければなりませんが、今まで一度も未納期間がなく、今後も60歳まで一度も未納期間がなければ、年間あたり788,900円(平成23年度の満額)が支給されます。
例えば成人になってから就職するまでの2年(24月)が未納期間になっていた場合、満額が支給される480月から24月を引き、下記のように計算します。
480月−24月=456月
788,900円×456月/480月=749,455円
また公務員だった方には、会社員の老齢厚生年金にあたる退職共済年金に上乗せして、職域加算額が支給されますが、それは以下の2つを足した金額になります。
・平成15年3月までの平均の標準報酬月額(共済組合の加入期間のみで計算)×1.5/1,000×平成15年3月までの共済組合の加入月数
・平成15年4月から現在までの平均の標準報酬額(共済組合の加入期間のみで計算)×1.154/1,000×平成15年4月から現在までの共済組合の加入月数
共済組合の加入期間が1年以上20年未満の場合、職域加算額の給付乗率1.5/1,000は0.75/1,000に、1.154/1,000は0.577/1,000になりますが、1年以上とは引き続く1年でなければなりません。
そしてこの給付乗率は、昭和21年4月2日以降に生まれた方に対して適用されるものであり、また計算の過程において物価スライドなどは考慮しておりません。
以上が職域加算額の目安額を計算する方法ですが、退職共済年金や職域加算額については、各共済組合から送付される公務員版の「ねんきん定期便」に、具体的な金額が記載されていると思います。
ですからその金額と、日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」に記載されている老齢厚生年金を足して、全体的な年金の金額を計算します。
(2)職域加算額は年金分割の対象
会社員の方には老齢厚生年金に上乗せして、企業年金(厚生年金基金、確定拠出年金など)が支給される場合がありますが、これは第1号改定者(年金を分割する側)から第2号改定者(年金の分割を受ける側)に分割される年金には含まれません。
しかし退職共済年金に上乗せして支給される職域加算額は、第1号改定者から第2号改定者に分割される年金に含まれます。
(3)情報通知書と年金分割の請求先
10月9日のブログで紹介した「年金分割のための情報通知書」を請求する場合、または夫婦間の話し合いで按分割合が決まり年金分割を請求する場合、第1号改定者が厚生年金保険の加入者なら、住所地の年金事務所に対してそれぞれの請求をします。
しかし第1号改定者が公務員の場合、下記の各共済組合に対して請求をする事になります。
・国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会
・地方公務員共済組合
・私立学校教職員共済
(4)公務員と会社員の職歴がある場合
夫婦のどちらか一方もしくは双方に、公務員と会社員の職歴が両方ある方がいる場合、分割はそれぞれ個別に行われます。
・同一制度内では標準報酬の総額の高い方が第1号改定者、標準報酬の総額の低い方が第2号改定者になります。
・別々の制度の場合には、その制度を有している方が第1号改定者となります。
・対象期間内(結婚から離婚するまでの期間)に2つ以上の制度の期間を有している時には、すべての制度またはどれか1つの制度でのみ分割も可能です。
追記:
平成27年(2015年)10月1日に、公務員が加入する共済年金は、厚生年金保険に統合されました。
これにより上記の統合日の前日において、70歳未満の共済年金の加入者は、統合日に厚生年金保険の加入者に変わり、また過去の共済年金の加入期間も、厚生年金保険の加入期間であったとみなされます。
そのため年金分割においても、この記事に記載されているような公務員と会社員の違いはなくなります。
ただ職域加算は年金分割の対象になり、企業年金は年金分割の対象ならないという部分に、変わりはありません。
(1)ねんきん定期便の違い
10月23日のブログでは「ねんきん定期便」を活用した、年金分割後の具体的な金額の計算方法を紹介しましたが、過去に公務員だった方に送付される「ねんきん定期便」に記載されている老齢基礎年金の金額は、共済組合の加入期間が反映されておりません。
これは公務員の方には老齢基礎年金が支給されないという訳ではなく、公務員の方は国民年金の第2号被保険者になりますので、60歳までに最低でも原則25年間保険料を納付すれば、原則65歳から老齢基礎年金が支給されます。
そこでまず正確な老齢基礎年金の計算をしなければなりませんが、今まで一度も未納期間がなく、今後も60歳まで一度も未納期間がなければ、年間あたり788,900円(平成23年度の満額)が支給されます。
例えば成人になってから就職するまでの2年(24月)が未納期間になっていた場合、満額が支給される480月から24月を引き、下記のように計算します。
480月−24月=456月
788,900円×456月/480月=749,455円
また公務員だった方には、会社員の老齢厚生年金にあたる退職共済年金に上乗せして、職域加算額が支給されますが、それは以下の2つを足した金額になります。
・平成15年3月までの平均の標準報酬月額(共済組合の加入期間のみで計算)×1.5/1,000×平成15年3月までの共済組合の加入月数
・平成15年4月から現在までの平均の標準報酬額(共済組合の加入期間のみで計算)×1.154/1,000×平成15年4月から現在までの共済組合の加入月数
共済組合の加入期間が1年以上20年未満の場合、職域加算額の給付乗率1.5/1,000は0.75/1,000に、1.154/1,000は0.577/1,000になりますが、1年以上とは引き続く1年でなければなりません。
そしてこの給付乗率は、昭和21年4月2日以降に生まれた方に対して適用されるものであり、また計算の過程において物価スライドなどは考慮しておりません。
以上が職域加算額の目安額を計算する方法ですが、退職共済年金や職域加算額については、各共済組合から送付される公務員版の「ねんきん定期便」に、具体的な金額が記載されていると思います。
ですからその金額と、日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」に記載されている老齢厚生年金を足して、全体的な年金の金額を計算します。
(2)職域加算額は年金分割の対象
会社員の方には老齢厚生年金に上乗せして、企業年金(厚生年金基金、確定拠出年金など)が支給される場合がありますが、これは第1号改定者(年金を分割する側)から第2号改定者(年金の分割を受ける側)に分割される年金には含まれません。
しかし退職共済年金に上乗せして支給される職域加算額は、第1号改定者から第2号改定者に分割される年金に含まれます。
(3)情報通知書と年金分割の請求先
10月9日のブログで紹介した「年金分割のための情報通知書」を請求する場合、または夫婦間の話し合いで按分割合が決まり年金分割を請求する場合、第1号改定者が厚生年金保険の加入者なら、住所地の年金事務所に対してそれぞれの請求をします。
しかし第1号改定者が公務員の場合、下記の各共済組合に対して請求をする事になります。
・国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会
・地方公務員共済組合
・私立学校教職員共済
(4)公務員と会社員の職歴がある場合
夫婦のどちらか一方もしくは双方に、公務員と会社員の職歴が両方ある方がいる場合、分割はそれぞれ個別に行われます。
・同一制度内では標準報酬の総額の高い方が第1号改定者、標準報酬の総額の低い方が第2号改定者になります。
・別々の制度の場合には、その制度を有している方が第1号改定者となります。
・対象期間内(結婚から離婚するまでの期間)に2つ以上の制度の期間を有している時には、すべての制度またはどれか1つの制度でのみ分割も可能です。
追記:
平成27年(2015年)10月1日に、公務員が加入する共済年金は、厚生年金保険に統合されました。
これにより上記の統合日の前日において、70歳未満の共済年金の加入者は、統合日に厚生年金保険の加入者に変わり、また過去の共済年金の加入期間も、厚生年金保険の加入期間であったとみなされます。
そのため年金分割においても、この記事に記載されているような公務員と会社員の違いはなくなります。
ただ職域加算は年金分割の対象になり、企業年金は年金分割の対象ならないという部分に、変わりはありません。