遺族基礎年金は7月20日のブログに記載しましたように、子の人数の増減によって、その金額が変わります。
しかし遺族厚生年金の場合、同じ順位(7月15日のブログを参照)の者が複数いる時は、9月9日のブログに記載したような方法で計算した遺族厚生年金を、均等に頭割りする事になります。
つまり例えば子が遺族厚生年金を受給する場合、子の人数の増減によって、それぞれが受給する金額は変わりますが、遺族厚生年金の金額そのものに変わりはありません。
また次のようなケースでも遺族厚生年金が少なくなったと、感じてしまう場合があります。
(1)中高齢寡婦加算から経過的寡婦加算に変わった場合
厚生年金保険の被保険者だった夫の死亡当時、その夫によって生計を維持していた妻は、40歳から65歳になるまでの間、遺族厚生年金に上乗せして、中高齢寡婦加算(9月18日のブログを参照)を受給する事ができます。
注:妻が遺族基礎年金を受給できる間、中高齢寡婦加算は支給停止されますが、子が高校を卒業する程度の年齢になり、遺族基礎年金の受給権を失権すると、その支給停止は解除されます。
このように中高齢寡婦加算を受給していた妻が65歳になると、中高齢寡婦加算は経過的寡婦加算に変わりますが、その金額は「経過的寡婦加算<中高齢寡婦加算」になるので、遺族厚生年金が少なくなったと感じてしまいます。
しかし妻がきちんと国民年金の保険料を納付していれば、65歳になると老齢基礎年金が支給されるので、妻が受給する年金の総額は、65歳になる前より多くなります。
なお生年月日によっては、経過的寡婦加算が支給されない場合もありますが、それでも妻が受給する年金の総額は、65歳になる前より多くなります。
(2)併給調整が行われる場合
会社員だった期間がある妻の場合、生年月日によっては60歳〜65歳になるまでの間、特別支給の老齢厚生年金(1月27日のブログを参照)を受給できます。
ただこの特別支給の老齢厚生年金と、夫などの死亡による遺族厚生年金は、原則として併給できませんので、60歳〜65歳になるまでの間は、どちらか一方を選択して受給しなければなりません。
しかし妻が65歳になり特別支給の老齢厚生年金が、老齢基礎年金と老齢厚生年金に切り替わると、「老齢基礎年金+老齢厚生年金+遺族厚生年金」の3つを、併給できるようになります。
ただ老齢基礎年金以外は、その一部について併給調整が行われますが、その調整とは次の3パターンに分かれます。
【遺族厚生年金>老齢厚生年金】
これは例えば妻が20歳から60歳になるまで、ほとんど専業主婦だった場合、またはパートで働いていたので、厚生年金保険に加入していなかった場合になりますが、このようなケースでは次のように調整されます。
・遺族厚生年金(老齢厚生年金の金額を引いた、余りのみを支給)
・老齢厚生年金(全額支給)
・老齢基礎年金(全額支給)
【遺族厚生年金<老齢厚生年金】
これは例えば妻が20歳から60歳になるまで、ほとんど正社員だった場合、つまり結婚後も引き続き、厚生年金保険に加入していた場合になりますが、このようなケースでは次のように調整されます。
・遺族厚生年金(全額支給停止)
・老齢厚生年金(全額支給)
・老齢基礎年金(全額支給)
【遺族厚生年金の3分の2+老齢厚生年金の2分の1>遺族厚生年金か老齢厚生年金】
これは例えば正社員として働いていた妻が、結婚後は専業主婦になったが、子が成長した後に再び正社員となり、厚生年金保険にある程度は加入した場合になりますが、このようなケースでは次のように調整されます。
・遺族厚生年金(3分の2を支給)
・老齢厚生年金(2分の1を支給)
・老齢基礎年金(全額支給)
以上のようになりますが、いずれにしろ併給調整により、遺族厚生年金の全部または一部が支給停止されます。
しかし老齢厚生年金と重なる部分の遺族厚生年金を、支給停止するだけですので、妻が受給する年金の総額は65歳になる前より、少なくなる事はありません。
(3)年金記録が見つかった場合
厚生年金保険の加入月数が300月未満の場合、9月9日のブログに記載しましたように、300月の最低保証が与えられます。
注:この理由として最低保証がないと、厚生年金保険に加入してからすぐに死亡した場合、遺族厚生年金が少なくなってしまうからです。
この最低保証のある遺族厚生年金に関する、未統合の厚生年金保険の年金記録が見つかり統合された場合、その統合された年金記録の準報酬月額(10月3日のブログを参照)が、「平均の標準報酬額」より高額だった時は、遺族厚生年金は増額されます。
注:平均の標準報酬額とは標準報酬月額と、標準賞与額(2月10日のブログを参照)の、平均額になります。
また逆に統合された年金記録の標準報酬月額が、平均の標準報酬額より少額だった時は、遺族厚生年金は減額します。
遺族厚生年金の金額は「平均の標準報酬額」と、「厚生年金保険の加入月数」で決まりますが、後者の方に300月の最低保証がある場合、未統合の年金記録が見つかり統合されても、厚生年金保険の加入月数の合計が300月を超えなければ、引き続き300月で計算されます。
ですから平均の標準報酬額の変化によってのみ、遺族厚生年金の増減が決まるので、上記のような現象が発生するのです。
しかし未統合の年金記録が見つかり統合される事により、遺族厚生年金が減額してしまう場合、その年金記録を統合しないという、取扱いもできますので、遺族厚生年金が少なくなる事はありません。
2014年08月24日
2014年08月03日
遺族厚生年金が失権になる場合とは
遺族厚生年金の受給権者が、次のいずれかの事由に該当した場合、その受給権は失権(消滅)します。
なお失権は支給停止と違って、失権の原因となった事由がなくなっても、その時点から再び、遺族厚生年金を受給できる事はありません。
注:年金を受給できなくなる理由として、支給停止と失権以外に「差し止め」がありますが、これはその原因がなくなれば、差し止めになった時点に遡って、再び年金を受給できるようになるので、年金を受給できない期間は生じません。
■配偶者(妻と夫)、子、父母、孫、祖父母に共通する事由
【死亡したとき】
【婚姻したとき】
届出をしていないが事実上婚姻関係と、同様の事情にある場合を含みます。
【直系血族または直系姻族以外の者の養子となったとき】
届出をしていないが事実上養子縁組関係と、同様の事情にある者を含みます。
なお直系血族とは自分の先祖である父母や祖父母などを、もしくは自分の子孫である、子や孫などを示しております。
また姻族とは婚姻によって生じた親族を意味するので、直系姻族とは配偶者の父や祖父母などを、もしくは自分の子や孫などの、配偶者を示しております。
【離縁によって死亡した厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった者との、親族関係が終了したとき】
離縁とは縁組(養子縁組)によって発生した親族関係を、消滅させる事を示しております。
■妻のみの事由
厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった夫の死亡当時、妻が30歳未満で、かつ18歳未満の子がいない場合、平成19年4月以降に受給権が発生した遺族厚生年金については、5年の有期年金になりました。
そのため5年が経過すると自動的に、遺族厚生年金の受給権を失権します。
また18歳未満の子がいたとしても、子の死亡などにより30歳になるまでの間に、遺族基礎年金の受給権を失権した場合には、その失権から5年を経過した日に、遺族厚生年金の受給権を失権します。
■子、孫に共通する事由
【18歳に達する日以後の、最初の3月31日を迎えたとき】
その子が障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にあるときを除きます。
【障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にある子について、その事情がやんだとき】
その子が18歳に達する日以後の、最初の3月31日までの間にあるときを除きます。
【障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にある子が、20歳に達したとき】
■父母、孫、祖父母に共通する事由
厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった者の死亡当時、胎児であった子が出生したときは、父母、孫、祖父母の遺族厚生年金の受給権は失権して、子に受給権が移ります。
この理由として遺族厚生年金を受給できる順位は、「配偶者と子→父母→孫→祖父母」になっており、父母、孫、祖父母より子の方が、先順位者になるからです。
なお公務員などが死亡した場合に支給される、遺族共済年金については、11月6日のブログに記載しましたように、「転給」という制度があるので、先順位者が受給権を失権すると、後順位者が遺族共済年金を受給できる場合があります。
しかし遺族厚生年金については、この転給のような制度は存在しませんので、子に移った遺族厚生年金の受給権が再び、父母、孫、祖父母に戻ってくる事はありません。
なお失権は支給停止と違って、失権の原因となった事由がなくなっても、その時点から再び、遺族厚生年金を受給できる事はありません。
注:年金を受給できなくなる理由として、支給停止と失権以外に「差し止め」がありますが、これはその原因がなくなれば、差し止めになった時点に遡って、再び年金を受給できるようになるので、年金を受給できない期間は生じません。
■配偶者(妻と夫)、子、父母、孫、祖父母に共通する事由
【死亡したとき】
【婚姻したとき】
届出をしていないが事実上婚姻関係と、同様の事情にある場合を含みます。
【直系血族または直系姻族以外の者の養子となったとき】
届出をしていないが事実上養子縁組関係と、同様の事情にある者を含みます。
なお直系血族とは自分の先祖である父母や祖父母などを、もしくは自分の子孫である、子や孫などを示しております。
また姻族とは婚姻によって生じた親族を意味するので、直系姻族とは配偶者の父や祖父母などを、もしくは自分の子や孫などの、配偶者を示しております。
【離縁によって死亡した厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった者との、親族関係が終了したとき】
離縁とは縁組(養子縁組)によって発生した親族関係を、消滅させる事を示しております。
■妻のみの事由
厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった夫の死亡当時、妻が30歳未満で、かつ18歳未満の子がいない場合、平成19年4月以降に受給権が発生した遺族厚生年金については、5年の有期年金になりました。
そのため5年が経過すると自動的に、遺族厚生年金の受給権を失権します。
また18歳未満の子がいたとしても、子の死亡などにより30歳になるまでの間に、遺族基礎年金の受給権を失権した場合には、その失権から5年を経過した日に、遺族厚生年金の受給権を失権します。
■子、孫に共通する事由
【18歳に達する日以後の、最初の3月31日を迎えたとき】
その子が障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にあるときを除きます。
【障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にある子について、その事情がやんだとき】
その子が18歳に達する日以後の、最初の3月31日までの間にあるときを除きます。
【障害等級の1級もしくは2級に該当する、障害状態にある子が、20歳に達したとき】
■父母、孫、祖父母に共通する事由
厚生年金保険の被保険者、もしくは被保険者であった者の死亡当時、胎児であった子が出生したときは、父母、孫、祖父母の遺族厚生年金の受給権は失権して、子に受給権が移ります。
この理由として遺族厚生年金を受給できる順位は、「配偶者と子→父母→孫→祖父母」になっており、父母、孫、祖父母より子の方が、先順位者になるからです。
なお公務員などが死亡した場合に支給される、遺族共済年金については、11月6日のブログに記載しましたように、「転給」という制度があるので、先順位者が受給権を失権すると、後順位者が遺族共済年金を受給できる場合があります。
しかし遺族厚生年金については、この転給のような制度は存在しませんので、子に移った遺族厚生年金の受給権が再び、父母、孫、祖父母に戻ってくる事はありません。