2014年08月07日

併給調整は原則として社会保険同士の問題である

60歳から65歳になるまでの間に支給される、特別支給の老齢厚生年金(1月27日のブログを参照)と、雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当は、以前は併給する事ができました。

しかし平成6年に法改正が行われ、平成10年4月1日以後に、特別支給の老齢厚生年金の受給権を取得した方は、7月29日のブログに記載しましたように、併給する事ができなくなりました。

このような法改正が行われたのは、様々な理由があると思われますが、「社会保険という財布」の中に入っているお金は限られている、またその財布から出て行くお金は、だんだん多くなってきているというのも、理由のひとつだと思います。

つまり社会保険同士の場合には、なんだかんだと理由を付けて併給調整を行い、財布から出ていくお金を少なくして、その中を空にしないようにしたいのです。

なお社会保険は次のように分類されますが、これらすべてを「広義の社会保険」、また労災保険と雇用保険を除いたものを、「狭義の社会保険」と分類する場合があります。

【医療保険】
業務外の病気、ケガ、出産、死亡が発生した時に、被保険者やその被扶養者などに対して、必要な保険給付を行いますが、次のように職業が変わると、加入する制度が変わります。

注:国民健康保険の保険給付は、労災保険に加入できない方(例えば事業主)に関しては、業務外や業務上といった区分に関係なく支給されます。

・会社員など→健康保険
・自営業やフリーランスなど→国民健康保険
・公務員や私立学校の教職員など→共済組合(共済保険)
・船員→船員保険

【年金保険】
老齢(退職)、 障害、遺族といった、3種類の年金がありますが、次のように職業が変わると、加入する制度が変わります。

・日本国内に住所を有する、20歳以上60歳未満の者(厚生年金保険や共済組合に加入する者を除く)→国民年金
・会社員や船員など→厚生年金保険
・公務員や私立学校の教職員など→共済組合(共済年金)

注:平成27年10月から、11月6日のブログに記載しましたように、共済組合(共済年金)は厚生年金保険に統合されます。

【介護保険】
介護保険に加入するのは原則として、40歳以上の者になりますが、実際に保険給付を受けられるのは、65歳以上の者、または特定疾病により介護が必要になった、40〜64歳の者になります。

【労働者災害補償保険(労災保険)】
業務上または通勤上の病気、ケガ、障害、死亡が発生した時に、労働者やその遺族などに対して、必要な保険給付を行います。

【雇用保険】
労働者が失業した時に基本手当、いわゆる失業手当などの、保険給付を行いますが、雇用継続給付や教育訓練給付などは、失業しなくても受給できます。

以上のようになりますが、逆に言えば財布が違えば併給調整は行われないという事で、例えば民間の保険会社が販売する生命保険、医療保険、個人年金保険などと社会保険は、併給調整は行われません。

またこのブログで自分年金作りのために紹介している国民年金基金、小規模企業共済、確定拠出年金(個人型)は、国庫から事務費の補助などを受けております。

ただ加入者から徴収した掛金は自分達で管理し、また自分達で運用しているので、社会保険とは別の財布になります。

そのためこれらの制度と社会保険は原則として、名称が同じ、もしくは名称が似ている給付であっても、併給調整は行われません。

注:例えば国民年金と確定拠出年金(個人型)の両者には、「死亡一時金」があり、また労災保険と国民年金基金の両者には、「遺族一時金」があります。

なお付加年金については、社会保険という財布からお金が出るので、老齢基礎年金に連動して、併給調整を受ける事になります。

また企業年金として実施されている確定給付企業年金、確定拠出年金(企業型)、厚生年金基金(代行部分を除く上乗せ部分)は、企業などから徴収した掛金を自分達で管理し、また自分達で運用しているので、社会保険とは別の財布になります。

そのためこれらの制度と社会保険は原則として、名称が同じ、もしくは名称が似ている給付であっても、併給調整は行われません。

ただこれらの制度を始める場合は、規約を定める事になりますが、「社会保険が財布からお金を出さないなら、こちらも財布からお金を出さない」と、規約に定められている場合があります。

注:人事総務部(課)や総務部(課)の方に聞いてみれば、規約の内容を知る方法を、教えてくれると思います。

つまり社会保険と連動するように、制度設計されている場合がありますので、こういった場合には財布が別でも、併給調整は行われます。
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2014年03月18日

第三者の行為に起因する保険給付と損害賠償の併給調整

厚生年金保険や国民年金などから支払われる、障害給付や遺族給付(年金、一時金)の受給要件となる障害や死亡が、例えば交通事故といった、第三者の行為に起因する場合があります。

このようなケースでは第三者から生活保障などの名目で、損害賠償が支払われる場合がありますが、同一人物に上記のような保険給付と損害賠償が、二重に支払われないようにするため、政府によって次のような調整が行われます。

■損害賠償が先だった場合
このような場合に政府は、その第三者から損害賠償として支払われた金額の範囲内で、障害給付や遺族給付を支払わない事ができますが、こういった減額調整が行われるのは、最高でも24ヶ月になります。

■保険給付が先だった場合
すでに政府から障害給付や遺族給付が支払われていた場合、その支払われた金額を限度にして、年金の受給権者が第三者に対して有する、民事上の損害賠償請求権を、政府が代位取得する事になります。

ただ調整の対象になるのは損害賠償額のうち、生活保障部分だけになりますので、医療費、見舞金、慰謝料、葬祭費などは含まれません。

また損害賠償額のうち、生活保障部分だけを算出するのは非常に難しいので、次のような簡易の生活保障費の算出方法を用いて、いずれか低い方を生活保障部分とします。

・(損害賠償額−医療費−葬祭費)×3分の2

・損害賠償額−(慰謝料+葬祭費+医療費+緊急経費−雑損失)

なお障害や死亡が第三者の行為に起因する事を、政府に対して報告するため、次のような書類を年金事務所などに提出します。

■第三者行為事故状況届、確認書
年金事務所などに所定の用紙が準備されておりますので、それに次のような内容を記入して提出します。

・届出人の氏名、生年月日、基礎年金番号

・年金証書の年金コード

・第三者の住所や氏名、または名称や所在地

・第三者の行為のあった年月日、その行為の概要

・第三者の行為によって生じた損害の見積額、ならびに第三者から損害賠償として受けた賠償金、または見舞金などの金額や受領年月日

■交通事故証明または事故が確認できる書類
交通事故証明が取れない場合には、事故内容がわかる新聞の写しなどを添付します。

■被害者に扶養されていた事がわかる書類
被害者に被扶養者がいる場合には源泉徴収票、健康保険証の写し、学生証の写しなど、被害者に扶養されていた事がわかる書類を提出します。

■損害賠償額がわかる書類
損害賠償額の算定書や示談書など、損害賠償額がわかる書類を提出します。

以上のようになりますが、健康保険は「交通事故、自損事故、第三者(他人)等の行為による傷病(事故)届」を、労災保険は「第三者行為災害報告書」を提出するといった、障害給付や遺族給付と同じようなルールがありますので、こちらも忘れないようにします。

追記:
老齢給付(年金、一時金)は、一定の年齢に達すると支給されるものであり、第三者の行為に起因する事はありませんので、上記のような併給調整について、考える必要はありません。
posted by FPきむ at 20:10 | 他の年金や社会保険との併給調整 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする