2014年03月13日

中国在留邦人に対する国民年金の特例とは

中国在留邦人が永住帰国した場合、国民年金の被保険者となり、帰国前の期間は合算対象期間(6月25日のブログを参照)とされてきました。

しかし合算対象期間は受給資格期間(6月27日のブログを参照)に含める事ができても、年金額には反映されないので、原則65歳から受給できる老齢基礎年金が、低額になるという問題が発生しました。

そのため次のような要件をすべて満たした方に対して、平成8年4月1日から特例措置が実施され、永住帰国前の期間は、国民年金の保険料免除期間(4月11日のブログを参照)とみなして、年金額に反映されるようになりました。

・本邦に永住帰国した中国残留邦人であること

・明治44年4月2日以後に生まれた方であること

・永住帰国した日から引き続き1年以上、本邦に住所を有すること

国民年金の保険料免除期間とみなされるのは、昭和36年4月1日から永住帰国した日の前日までの期間で、20歳以上60歳未満の期間になりますが、永住帰国した日から引き続き本邦に住所を有したまま、1年を経過した日に、保険料免除期間とみなされます。

注:国民年金が始まったのは昭和36年4月1日からであり、また国民年金の強制被保険者になるのは、20歳以上60歳未満になるからです。

ただ中国人との婚姻や養子縁組、または帰化などにより、日本国籍を有していなかった、昭和56年3月31日以前の期間は除かれます。

この保険料免除期間とみなされる期間については、永住帰国後1年を経過した日から5年以内なら、保険料を追納(5月13日のブログを参照)する事ができます。

ただ平成8年4月1日に特例措置が実施された時に、すでに永住帰国後1年を経過している方については、平成13年3月31日が追納できる期限になります。

以上のようになりますが、平成8年4月1日に特例措置が実施された後も、老齢基礎年金が低額になるという問題は解決されなかったので、平成20年1月1日から、新たな特例措置が実施されました。

これにより満額の老齢基礎年金を、受給できる可能性が広がりましたが、平成20年1月1日からの特例措置とは、次のような制度になります。

■特例措置の対象者
本邦に永住帰国した中国残留邦人(樺太残留邦人も含む)で、次のすべての要件を満たす方になります。

・明治44年4月2日以後に生まれた方であること

・昭和21年12月31日以前に生まれた方であること
昭和22年1月1日以後に生まれたけれども、昭和21年12月31日以前に生まれた、中国残留邦人に準ずる事情のあるものとして厚生労働大臣が認める、60歳以上の方も含みます。

・永住帰国した日から引き続き1年以上、本邦に住所を有すること

・昭和36年4月1日以後に初めて、永住帰国した方であること

■特例措置の受付期間
平成20年1月1日から5年間、また帰国後11年に満たない方は、1年が経過した日から5年間になります。

■保険料の追納の手順
追納の対象となる期間の保険料相当額を一時金として支給し、国がその一時金から、老齢基礎年金の満額に必要な保険料を、国庫に納付します。

すでに自分で保険料を納付した場合は、その保険料相当額を一時金から差し引いて、本人の口座に振り込みます。

■年金額の改定
すでに65歳に達しており、老齢基礎年金を受給している方に対しては、保険料が追納された翌月分から、年金額が改定されます。

また65歳に達する前に、老齢基礎年金を繰上げ(8月5日のブログを参照)している方に対しては、満額に減額率を掛けて、老齢基礎年金を計算し直します。

なお繰上げによる減額のない、満額の老齢基礎年金を受給したい方に対しては、すでに支払った老齢基礎年金を、満額の老齢基礎年金の一部とみなすなど、一定の調整を行ったうえで、満額支給に切り替えます。
posted by FPきむ at 20:14 | 年金の歴史と過去の制度 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月27日

厚生年金保険(船員保険)の戦時加算とは

太平洋戦争が始まったのは昭和16年12月8日になりますが、それが終戦を迎えたのは、昭和20年8月15日になります。

この間に坑内員や船員であった方は、危険にさらされながら仕事をしていたので、実際に厚生年金保険の被保険者であった月数に、一定の割増が行われますが、このような制度を「戦時加算」と言います。

注:年金事務所などから渡される書類には「戦加」と、略して記載されている場合が多いのです。

高齢になった時に支給される老齢年金は次のように算出しますので、この戦時加算を適用する事により、年金額を多く受給できるようになります。

・平均標準報酬額×給付乗率×被保険者期間の月数×スライド率

また戦時加算を適用する事により、老齢年金を受給するために必要な加入期間、いわゆる「受給資格期間」(6月27日のブログを参照)を、満たせる可能性が高くなりますが、この戦時加算とは次のような制度になります。

(1)坑内員の戦時加算
戦時加算により一定の期間を割増できるのは、昭和19年1月1日から昭和20年8月31日までの、坑内員であった期間になります。

その期間については3分の1を掛けた期間が、実際に厚生年金保険の被保険者であった月数に加算されますが、坑内員であった期間が20月の場合は、次のように算出します。

【坑内員や船員であった期間のうち、昭和61年3月までの被保険者期間については、3分の4倍できるという特例がありますので、まずその特例を適用します】

注:ちなみに昭和61年4月から平成3年3月までの被保険者期間は、5分の6倍できるという特例があります。

20月×3分の4=26.6月

【3分の4倍した期間に3分の1を掛けて、戦時加算となる期間を算出します】

20月×3分の4×3分の1=8.8月

【この二つを併せた期間が、昭和19年1月1日から昭和20年8月31日までの、被保険者期間になります】

26.6月+8.8月=35.4月

なお年金額を算出する際には、1ヶ月未満の端数は切り上げるので、36月という事になります。

また受給資格期間を算出する際には、1ヶ月未満の端数は切り捨てるので、35月という事になります。

(2)船員の戦時加算
戦時加算により一定の期間を割増できるのは、昭和16年12月8日から昭和18年12月31日、もしくは昭和19年1月1日から昭和20年8月31日のうち、船員であった期間になります。

ただ次のように海域によって割増できる月数が変わり、また瀬戸内海や沿岸を渡航していた船員に、戦時加算は行われません。

■昭和16年12月8日から昭和18年8月31日
太平洋とインド洋を渡航していた船員に割増が行われ、3分の1を掛けた期間が戦時加算になりますが、船員であった期間が20月の場合は次のようになります。

20月×3分の1=6.6月

注:坑内員のように3分の4倍しない、つまり実期間に3分の1を掛けますが、その他の点は端数の考え方も含めて、上記の坑内員と同じように計算します。

■昭和19年1月1日から昭和20年8月31日
太平洋かインド洋、日本海や渤海を渡航していた船員に、割増が行われますが、海域によって戦時加算が変わります。

・太平洋かインド洋
1ヶ月(3分の4倍しない実期間)につき、2ヶ月を加算します。

・日本海や渤海
1ヶ月(3分の4倍しない実期間)につき、1ヶ月を加算します。

以上のようになりますが、1月6日のブログで紹介したように、昭和61年4月から船員保険の年金部門は、厚生年金保険に統合されました。

ですからこのような戦時加算は、正確には船員保険のものになり、また昭和61年4月をまたいで船員であった方は、船員保険と厚生年金保険の年金記録が並存します。

このような場合には船員保険と、厚生年金保険の年金記録を通算して、国民年金の受給資格期間(25年)を満たしているかを判断しますが、受給資格期間を満たしていれば国民年金と厚生年金保険から、老齢年金が支給されます。

ただ戦時加算がある方は例外となり、船員保険と厚生年金保険の年金記録を通算して、船員保険の受給資格期間(15年)を満たしているかを判断しますが、受給資格期間を満たしていれば船員保険から、老齢年金が支給されます。

なお戦時加算を含めた船員保険の年金記録だけで、この受給資格期間を満たしている場合には、55歳から老齢年金が支給されますが、厚生年金保険の年金記録を通算しないと、受給資格期間を満たせない場合には、60歳から通算老齢年金(2月19日のブログを参照)が支給されます。
posted by FPきむ at 20:30 | 年金の歴史と過去の制度 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする