2019年12月03日

現状維持のままにしていると、「世界年金指数ランキング」は更に下がる

令和元年(2019年)11月26日の産経新聞を読んでいたら、年金減額基準、現状維持へ 働く65歳以上、月収47万円 政府、与党の批判根強くと題した記事が掲載されておりましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『政府は25日、働いて一定以上の収入がある高齢者の年金を減らす在職老齢年金制度に関し、65歳以上の人が対象となる場合の月収の基準を見直さず現行の「47万円超」を維持する方針を固めた。

「51万円超」を検討したが、現在よりも高収入の人が年金を受給することになり「年金財政に悪影響」「高所得者優遇と言われかねない」との与党内の批判が根強く、軌道修正を迫られた格好だ。

近く自民、公明両党が意見集約するのを踏まえ、政府は決定する。在職老齢年金制度は65歳以上の場合、賃金と年金の合計が月47万円を上回ると減額される。

本来なら受け取れる年金を我慢してもらい、年金財政の維持につなげている。だが政府は高齢者雇用を促進しており、就業意欲を損なっているとの指摘を受けて見直しを進めていた』

以上のようになりますが、65歳以降も厚生年金保険に加入する場合、老齢厚生年金の月額と、月給の合計額が47万円を超えると、「在職老齢年金」の仕組みにより、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。

この制度は高齢者の就労意欲を損なっているという指摘があったため、政府は廃止する方向で議論を始めたのですが、議論の途中から廃止ではなく、47万円を62万円に引き上げするという案に変わったのです。

しかしこの金額は高いという事で、47万円を51万円に引き上げするという案に落ち着きました。

これで決着かと思っていたら、最終的には冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、現状維持のまま行くそうです。

先日に厚生労働省から発表された年金財政検証では、在職老齢年金を廃止した場合や、47万円を62万円に引き上げした場合の、年金受給に対する影響などが試算されておりました。

ここまで手間と時間をかけておいて、最終的には現状維持というのは、おかしな話だと思うのです。

また冒頭で紹介した記事の中には、「年金財政に悪影響」や「高所得者優遇と言われかねない」という、与党内の批判が記載されておりましたが、そんなのは議論を始まる前からわかっていたと思うのです。

このようにして年金制度の改革を先送りしてきたから、国民からの信頼をなくすのだと思います。

そういえば米大手コンサルティング会社の「マーサー」が、「世界年金指数ランキング」というものを、定期的に発表しております。

このランキングは次のような3つの視点で、主要国の年金制度を評価したものです。

(1)国民の資産の充実度(40%)
老後への備え、預貯金や持家などの資産状況、福利厚生、税制面の補助などに関する評価(各国の年金制度だけでなく、各人の老後に対する自助努力も評価しているとわかります)

(2)年金制度の持続可能性(35%)
年金基金の資産状況、人口動態、政府の負債、国の経済成長の見通しなど

(3)規制など制度面全体の誠実度(25%)
監督規制、ガバナンス、制度運用コストなど

日本の令和元年(2019年)の順位は、37ヶ国中で30位という、かなり低いものでした。

数年前にこのランキングを見た時も、同じような順位だったので、驚きはなかったのですが、次のような日本の前後にある国を見た時には、かなりの驚きを感じたのです。

29位:韓国
30位:中国
31位:日本
32位:インド
33位:メキシコ
34位:フィリピン
35位:トルコ
36位:アルゼンチン
37位:タイ

その理由としては永遠のライバルである韓国より順位が低く、また日本の下には新興国しかなかったからです。

ただ欧米にある格付け会社の多くは、日本国債より韓国国債を高く評価している、つまり日本より韓国の方が、財政が健全と評価しているので、日本が韓国より順位が低いのは、やむを得ない面があるのかもしれません。

このように日本の順位が低い理由について調べてみたら、「(2)年金制度の持続可能性」に対する評価が低いからのようです。

日本では年金制度がいずれ破綻するのではないかと、心配する方がいるようですが、年金制度の持続可能性に対する評価が低い点から考えると、全くありえない話ではないと思えてきました。

ですから年金制度の持続可能性を高めるための改革が必要なのですが、在職老齢年金以外でも何だかんだと理由をつけて、現状維持のままにしております。

このような状態を続いていくと、世界年金指数ランキングの順位は更に下がっていき、何度も財政破綻しているアルゼンチンに、追い越される日が来るかもしれません。
posted by FPきむ at 20:23 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月18日

「在職老齢年金」を廃止できないのだから、「在職定時改定」は夢物語

令和元年(2019年)11月13日のNHK NEWS WEBを読んでいたら、在職老齢年金の減額基準 収入51万円へ引き上げ案 おおむね了承と題した記事が掲載されておりましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度について、厚生労働省は年金が減らされる収入の基準額を現在の47万円から51万円に引き上げる案を社会保障審議会に示し、おおむね了承されました。

「在職老齢年金」制度は働いている高齢者の年金を減らす仕組みで、65歳以上の人では給与と年金合わせて月額47万円を上回る場合は減らされます。

しかし高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘も出ていることから、厚生労働省は見直しを検討していて、13日の社会保障審議会の部会に年金が減らされる基準額を51万円に引き上げる案を示しました。

先月の部会で厚生労働省は基準額を62万円に引き上げる案と制度そのものを廃止する案の2つを示していましたが、与党内から「所得の高い人にさらに年金が支給されることになる一方、将来世代の支給水準が下がる」などの指摘が出されたため、引き上げ幅を縮小しました。

51万円にした場合、年金が減らされる人は、今よりもおよそ9万人少なくなり、年金の支給総額は年間およそ700億円増えるものの、将来の公的年金の給付水準を示す「所得代替率」は0.1ポイント未満の低下にとどまり、将来世代への影響は限定的だとしています。

この案に対し、委員からは「高齢者の就労を促すものだ」などの賛成意見が出され、おおむね了承されました。厚生労働省は年内に具体策をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出する方針です』

以上のようになりますが、この記事を読んでいると在職老齢年金の改正に、いよいよ結論が出そうな感じがします。

また改正案が実施される時期により、影響の度合いが変わってくるので、今後はそちらに注目が集まりそうですが、個人的な感想を書いてみると次のようになります。

(1)改正案が実施される時期によっては、恩恵を受けられる方が少ない
60歳から65歳の間に、厚生年金保険に加入して働いている場合、特別支給の老齢厚生年金の月額と月給の合計額が、28万円という停止基準額を超えると、特別支給の老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。

また65歳以降も厚生年金保険に加入して働いている場合、老齢厚生年金の月額と月給の合計額が、47万円という停止基準額を超えると、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止になります。

その理由としては働く高齢者の年金額を調整する、「在職老齢年金」という制度があるからです。

ただ高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘があるため、この在職老齢年金を見直しするための議論が行われているのですが、最初は廃止が有力案でした。

しかし議論が進むうちに、上記の28万円と47万円の両者を、62万円まで引き上げする案が有力になり、最終的には51万円で落ち着きそうです。

このように47万円を51万円に引き上げするのは、ほとんど変化がない感じがしますが、28万円を51万円に引き上げするのは、すごく大きな変化だと思います。

ただ60歳から65歳までの間に支給される、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は、男性の場合は次のようなスケジュールで、段階的に引き上げされているのです。

・昭和28年4月1日以前生まれ:60歳
・昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日生まれ:61歳
・昭和30年4月2日〜昭和32年4月1日生まれ:62歳
・昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日生まれ:63歳
・昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日生まれ:64歳
・昭和36年4月2日以降生まれ:65歳

そのため改正案が実施される時期によっては、恩恵を受けられる方があまりいないという状況になりそうです。

(2)1%程度しかいない繰下げ受給の利用者を、増加させる効果はない
原則65歳となる老齢基礎年金や老齢厚生年金の支給開始を、1ヶ月繰下げる(遅くする)と、「繰下げ受給」の制度により、0.7%の割合で年金額が増えていきます。

現在の上限である70歳まで繰下げすると、最大で42%(5年×12ヶ月×0.7%)も年金額が増えるため、お得な制度だと思うのですが、厚生労働省の調査によると、平成28年(2016年)度末における利用者は1%程度でした。

それにもかかわらず厚生労働省は、繰下げできる年齢の上限を、75歳程度まで引き上げする案を出しております。

もし実現した場合には、最大で84%(10年×12ヶ月×0.7%)も年金額が増える可能性があるため、更にお得な制度になるのですが、繰下げ受給の利用者が増えるとは思えないのです。

その大きな理由として、在職老齢年金で支給停止になった年金は、繰下げしても増えないというルールのため、繰下げ受給の利用者を増やしたいのなら、在職老齢年金を廃止するのが良いのです。

しかし上記のように在職老齢年金の改正は、制度の廃止ではなく、停止基準額を少し引き上げするという、軽微な改正に止まりました。

そのため繰下げ受給の利用者は、上限が75歳程度まで引き上げされても、ほとんど増えないと思うのです。

なお60歳から65歳までの間に支給される特別支給の老齢厚生年金は、繰下げしても年金額は増えないため、停止基準額が28万円から51万円に引き上げされても、繰下げ受給に対する良い影響はありません。

(3)退職しなくても年金が増える「在職定時改定」は、夢物語だと思う
65歳以降も厚生年金保険に加入する場合、老齢厚生年金は増えていきますが、年金額が改定されるのは、70歳に到達してから、または退職して1ヶ月が経過してからになります。

これだと退職しなかった場合には、5年も待つ必要があるため、前年に納付した保険料に応じて、年金額が1年ごとに改正される、「在職定時改定」の導入が検討されているのです。

ただ財源不足が理由のひとつになって、在職老齢年金を廃止できなかったのですから、この在職定時改定も財源不足により、夢物語で終わる気がします。
posted by FPきむ at 20:35 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする