2024年09月04日

国民年金の納付期間の5年延長が見送りされて困るのは「無課金おじさん」

令和6年(2024年)7月14日の日本経済新聞を読んでいたら、年金納付5年延長 増税恐れ「異例の早さ」で封印と題した記事が掲載されていましたが、一部を紹介すると次のようになります。

『7月初旬に公表された公的年金財政の将来見通しを示す「財政検証」では、国民年金の保険料納付期間の5年延長の扱いが焦点の一つだった。

厚生年金に比べて劣る国民年金の給付水準を高めるのが狙いで、2025年の制度改正での実施を検討してきた。ただ財政検証で課題に挙げられたにもかかわらず早々と見送りが決まった』

以上のようになりますが、国民年金の保険料の納付期間は、現在は20歳から60歳までの40年間です。

これを将来的に5年延長して、20歳から65歳までの45年間にするという改正案があります。

厚生労働省は5年に1度のペースで、公的年金財政の将来見通しを示す財政検証を実施しています。

令和6年(2024年)は財政検証の年だったので、厚生労働省は同年7月初旬に試算結果を発表しました。

財政検証の際には5年延長する改正案を実施した時の、年金の給付水準の変化なども試算されています。

また財政検証の中で試算が実施されると、改正が実施される可能性がかなり高くなるのです。

そのため来年辺りの年金改正の際に、5年延長が現実になるのかと思っていたら、冒頭で紹介した記事の中に記載されているように、早々と見送りが決まりました。

会社員や公務員などが加入している厚生年金保険の加入上限は、今のところは70歳になります。

また所定の加入要件を満たして、60歳以降も厚生年金保険に加入している間は、国民年金に加入する必要がないため、5年延長になっても影響はないのです。

厚生年金保険の加入者に扶養されている、年収130万円未満などの要件を満たす20歳以上60歳未満の配偶者は、所定の届出によって国民年金の第3号被保険者になります。

この第3号被保険者は国民年金に加入していますが、保険料を納付しなくても良いうえに、保険料を納付したという取り扱いになるのです。

国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった時に、第3号被保険者が保険料を納付するのかは、まだ明らかになっていません。

そのため60歳以降は保険料を納付する可能性もあれば、引き続き納付しなくても良い可能性もあります。

このように厚生年金保険の加入者には影響がなく、第3号被保険者は微妙な感じですが、国民年金の第1号被保険者は確実に負担が増えます。

また第1号被保険者に該当するのは、自営業者、フリーランス、農林漁業者、厚生年金保険の加入要件を満たさない短時間労働者、無職の方などです。

第1号被保険者が納付する国民年金の保険料は、令和6年(2024年)度額で月1万6,980円です。

この金額が将来的に変わらないと仮定すると、101万8,800円(1万6,980円×12月×5年)くらいは、新たに負担が増える可能性があります。

けっこうな負担になりますが、国民年金の保険料を1月納付すると、65歳から受給できる老齢基礎年金が1,700円くらい増えるのです。

そのため国民年金の保険料の納付期間が5年延長になった後は、10万2,000円(1,700円×12月×5年)くらいは老齢基礎年金の増額が期待できます。

ただ無職の方や短時間労働者の方が、101万8,800円もの金額を負担するのは大変なので、60歳未満の方が利用できる免除制度が、60歳以降に延長されると思います。

この免除制度には全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除がありますが、いずれを受けられるのかは収入によって変わるのです。

例えば収入が低い短時間労働者の方が、全額免除を受けられる前年の年収の目安は次のような金額です。

・単身者:122万円以下
・配偶者などの扶養親族が1人いる方:157万円以下

老齢基礎年金の財源の2分の1は税金になるため、例えば全額免除を受けて保険料を納付しなくても、1ケ月あたり850円(1,700円÷2)くらい年金額が増えるのです。

つまり無課金でも保険料を納付した場合の半分を受給できるため、収入が低い方にとって5年延長は、かなりのメリットがあるのです。

また5年間に渡って全額免除を受けられた場合には、5万1,000円(850円×12月×5年)くらい老齢基礎年金が増えます。

パリオリンピックでは射撃の混合エアピストルで銀メダルを獲得した、トルコ人のユスフ・ディケチさんが、「無課金おじさん」と呼ばれて話題になりました。

全額免除のメリットから考えると、5年延長が見送りされて困るのは、全額免除で保険料は無課金なのに年金額が増える予定だった、年金界の「無課金おじさん」なのかもしれません。
posted by FPきむ at 20:38 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年08月03日

最低賃金の引き上げによる社会保険の適用拡大はWin-Winのシナリオ

令和6年(2024年)7月24日の読売新聞を読んでいたら、最低賃金を過去最大50円引き上げ、全国平均は1054円へ…中央最低賃金審議会の小委員会と題した記事が掲載されていました。

最低賃金が決まる仕組みなどがよくわかる記事だったので、一部を紹介すると次のようになります。

『今年度の最低賃金(時給)について、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は24日、引き上げ額の目安を全国平均で50円(5・0%)とすることを決めた。

目安通りに改定されれば、最低賃金の全国平均は現在の1004円から1054円となる。物価高などを背景に、引き上げ額は昨年度の43円を上回り、過去最大となった。

最低賃金は、企業が労働者に支払わなければならない下限額。労使の代表者と公益委員(学識者)で構成する審議会が毎年、物価や実際の賃金水準などを参考に引き上げ額の目安を示す。

実際の引き上げ額は、この目安を参考に、都道府県ごとの審議会で議論され、決められる。

小委員会は例年、47都道府県を経済情勢などに応じて、上位からA(東京など6都府県)、B(京都など28道府県)、C(沖縄など13県)の3グループに分け、目安額を提示しているが、今回はいずれも50円とした。

目安通りに引き上げられれば、これまでの8都府県に加えて、北海道や静岡、三重、広島など8道県の最低賃金が1000円を突破。

大阪は東京、神奈川に次いで、1100円台に到達する。新たな最低賃金は10月以降に適用される』

以上のようになりますが、ここ数年は最低賃金に関するニュースを、新聞やテレビなどがよく取り上げている印象があります。

その理由としては急激な物価上昇や人手不足などの影響を受けて、大幅な引き上げが続いているからだと思います。

例えば令和5年(2023年)10月以降に適用される、都道府県別の最低賃金の全国加重平均は、前年度より43円引き上げされ、1,004円(時給)に達しました。

この43円という引き上げ幅は過去最大だっただけでなく、全国加重平均が1,000円を超えたのは初めてだったのです。

冒頭で紹介した記事によると、令和6年(2024年)10月以降に適用される最低賃金の引き上げ幅は、過去最大だった43円を上回る50円になりそうなので、驚きを感じます。

ただ政府としては全国加重平均を1,500円にしたい意向なので、まだ序の口なのかもしれません。

最低賃金が引き上げされて給与が上がっていくのは、労働者にとっては良い事ですが、悪い面もあるのです。

そのひとつは社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する、次のような5つの要件の中にある、(B)の賃金要件を満たしやすくなる点です。

(A)1週間あたりの労働時間が20時間以上
(B)賃金の月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上
(C)学生ではない
(D)2ケ月を超えて雇用される見込みがある
(E)従業員数が101人以上の企業で働いている
※令和6年(2024年)10月以降は「101人→51人」

社会保険に加入しないように、労働時間を調整している方がいるかもしれませんが、最低賃金の引き上げが続いていくと、調整するのが難しくなると思います。

また調整するのが難しくなって社会保険に加入すると、この保険料の分だけ給与の手取りが減ってしまうのです。

ただ最低賃金の引き上げが続いていけば、給与の手取りの減少は抑えられるため、最低賃金の引き上げによる社会保険の適用拡大は、Win-Winのシナリオだと思います。

つまり保険料収入が増えて年金財政が安定化する政府だけでなく、社会保険に加入する労働者にもメリットがあるのです。

もちろん給与の手取りが減るのはデメリットですが、65歳になると厚生年金保険から老齢厚生年金が支給されるようになる点も含めて考えると、やはりメリットだと思います。

逆にWin-Winではないシナリオは、例えば賃金要件を5万8,000円(年収だと約70万円)以上に引き下げして、社会保険の加入者を強引に増やす事です。

そうすると年収が100万円にも満たない方からも、社会保険の保険料が徴収されるようになるため、生活するのが更に大変になるのです。

こういった強引なシナリオが実施される可能性もあったのですが、令和3年(2021年)度から続く最低賃金の大幅な引き上げによって、実施の可能性は低下したと思います。
posted by FPきむ at 20:32 | 年金について思うこと、考えること | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする